文献紹介

GISTにおける全生存期間と無増悪生存期間の相関に関するメタ解析

Meta-analysis for the association between overall survival and progression-free survival in gastrointestinal stromal tumor
Özer-Stillman I, et al. Clin Cancer Res. 2014; 21: 295-302
静岡県立総合病院 消化器センター 食道胃外科 佐藤真輔

背景・目的

GISTは比較的稀な腫瘍であり、進行期には分子標的治療薬による治療が行われる。これらの薬効を評価するうえで、ゴールドスタンダードとされるのは全生存期間(OS)であるが、進行GISTにおけるOSの評価は、長期追跡を要することに加え、後続の治療に影響されやすいことなどから、OSに代わり無増悪生存期間(PFS)が広く用いられている1)
GISTにおいて、PFSがOSの代替マーカーとして妥当であるかを検討した報告はないため、本研究では、進行GISTを対象とした分子標的治療薬の無作為化臨床試験(RCT)および観察研究を用いてメタ解析を行い、OSとPFSの関係を検討した。

方法

PubMedやEmbaseを用いて、進行GISTを対象とした分子標的治療薬の臨床試験および観察研究を同定した。症例数15例以上で、OS中央値とPFS中央値が報告されている研究を適格とみなした。さらに各試験の質をGRADE(Grades of Recommendation, Assessment, Development, and Evaluation)システムにより評価し、quality scoreが平均1.75未満の質の低い試験は除外した。
OS中央値とPFS中央値の関係は、重み付き線形回帰分析により評価し、決定係数(R2)とピアソンの相関係数(r)を算出した。回帰分析に大きな影響を及ぼすinfluential data pointは、DFBETAS(Difference in Beta Scaled)を指標として同定した。各治療群を治療ライン、治療薬、試験の質で層別し、これらの変数がOSとPFSの関係に及ぼす影響についても検討した。

結果

1995年1月~2013年12月の間に発表されたRCT 14報および観察研究5報に含まれる29治療群、2,189例を解析対象とした2-20)。各治療群の症例数は15~349例であり、OS中央値の平均値および中央値はそれぞれ18.7ヵ月および11.8ヵ月、PFS中央値の平均値および中央値はそれぞれ7.9ヵ月および4.1ヵ月であった。用いられた分子標的治療薬は、イマチニブスニチニブレゴラフェニブ、ニロチニブなどであった。

全体解析

29治療群すべてを含めた解析では、OS中央値はPFS中央値と強く関連していた(R2=0.84、r=0.91)。Influential data pointとして同定された4群(文献2の2群および文献16、20の各1群)を除いて感度解析を行った結果、相関係数は低下したものの、OSとPFSの間には依然として強い相関が認められた(R2=0.52、r=0.72)。

治療ラインによる層別解析

29治療群の治療ラインの内訳は、1st-line 4群、2nd/2.5-line 8群、3rd-line以降17群であった。層別解析の結果、OSとPFSの相関関係は、2nd/2.5-lineにおいて最も強く(R2=0.66、r=0.80)、次いで3rd-line以降(R2=0.39、r=0.70)、1st-line(R2=0.08、r=0.52)の順であった。1st-lineで強い相関が認められなかったのは、1st-line後の治療選択肢が増え、進行後の生存期間が延長したためであると考察される。
Influential data point(文献20、18、4、7、17の各1群)を除外した感度解析の結果、2nd/2.5-lineおよび3rd-line以降では、OSとPFSの間に中程度の相関が認められたが(それぞれR2=0.51、r=0.66、およびR2=0.44、r=0.63)、1st-lineでは有意な相関は認められなかった(R2=0.98、r=-1)。

治療薬による層別解析

各群の治療薬の内訳は、イマチニブ単剤療法8群、スニチニブ3群、ソラフェニブ5群、イマチニブ併用療法5群、他のチロシンキナーゼ阻害薬 7群であった。層別解析の結果、OSとPFSの相関関係は、イマチニブ単剤療法において最も強く(R2=0.72、r=0.91)、次いで他のチロシンキナーゼ阻害薬(R2=0.39、r=0.69)、スニチニブ(R2=0.44、r=0.66)の順であり、ソラフェニブではほとんど認められなかった(R2=0.03、r=0.29)。また、イマチニブ併用療法では、OSとPFSの間に相関は認められなかった(R2=0.16、r=-0.26)。

試験の質による層別解析

29治療群のquality scoreは、1.75点3群、2~2.75点21群、3~3.75点5群であった。層別解析の結果、試験の質によらず、OSとPFSの間には強い相関が認められた(1.75点 R2=0.96、r=0.98; 2~2.75点 R2=0.73、r=0.85;3~3.75点 R2=0.96、r=0.99)。

結論

分子標的治療を受けた進行GIST患者において、OS中央値とPFS中央値の間には強い相関関係があり、特に2nd-line以降の治療では強い相関が認められた。以上の結果から、PFSはOSの代替マーカーになりうることが示唆されるが、今後、患者レベルのデータを用いた解析により、その妥当性を確立していく必要がある。

コメント

OSの代わりとなる信頼できる代替マーカーの存在は新規薬剤の開発を行う上で重要である。PFSのOSの代替マーカーとしての妥当性についてGISTに関してはこれまで報告がなく、その点で非常に興味深い。
本研究の結果、OSとPFSの相関性は高く、層別解析すると1st-lineでは後治療の影響から強い相関関係が見られなかったが、2nd/2.5-lineで最も強い相関関係が認められた。進行GISTでは1st-lineは全世界的にイマチニブが標準でありバリエーションがないこと、2nd-line 以降はイマチニブと比べればOS、PFSともに短い薬剤が使用されていることがその要因であろう。この結果は2nd/2.5-lineでついたPFSの差をその後に打ち消す有効な選択肢が現時点ではないとも解釈できる。近年、新しい治療薬が導入されて選択肢が増えることで治療期間が長期化している。その点では進行GISTにおいてOSに対するPFSのsurrogacyが示唆されたことは意義がある。しかし、今後強力な新規薬剤や治療戦略が開発された際のPFSの結果の解釈には慎重さが求められる。

引用文献

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