文献紹介

再発/転移GISTに対する転移巣切除の意義:近畿GIST研究会登録事業の解析

Role of metastasectomy for recurrent/metastatic gastrointestinal stromal tumors based on an analysis of the Kinki GIST registry
Sato S, et al. Surg Today. 2017; 47: 58-64
静岡県立総合病院 消化器センター 食道胃外科 佐藤真輔

背景・目的

再発/転移GISTに対する治療の中心は、イマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の投与である。近年、転移GISTに対して、TKIと外科切除あるいはラジオ波焼灼療法(RFA)を組み合わせた集学的治療の有用性が報告されているが1-5)、局所治療の追加による生存延長効果は不明であり、これを検証するための前向き臨床試験の実施も困難である。そこで、本研究では、近畿GIST研究会登録事業のデータを用いて、初発GIST切除後の転移/再発例に対する外科切除の意義を後ろ向きに解析した。

方法

2003年1月~2007年12月の間に国内40施設でGISTと診断された患者を登録し、このなかから再発/転移例を選択して、臨床的データを収集した。再発/転移後にTKIのみで治療された患者を薬物療法群(DT群)、TKI治療に加えて外科切除(RFAを含む)を受けた患者を外科治療群(ST群)とし、両群間で臨床的特徴や予後を比較した。

結果

患者背景

2003年1月~2007年12月に40施設から登録されたGIST患者737例のうち、原発巣切除後(R0/R1)に再発/転移をきたしたのは93例(12.6%)であった。これらの患者の初発GISTの診断時年齢(中央値)は65.1歳、男女比は56:37、無病期間中央値は24.8ヵ月であった。主な原発部位は胃(47例、50.5%)、十二指腸/小腸(34例、36.6%)であった。初発GISTに対して、術後および術前のイマチニブ治療を受けた患者はそれぞれ14例(15.1%)および3例(3.2%)であった。追跡期間中央値は75.2ヵ月であった。
ST群は50例(53.8%)、DT群は43例(46.2%)であった。ST群は、DT群に比べて、初発GISTの診断時年齢が有意に低かったが(中央値60歳 vs. 69.7歳、p<0.001)、その他の臨床的特徴に有意差はなかった。

再発/転移巣に対する治療選択と臨床的特徴、予後

肝転移のみの患者では、61.9%(26/42例)が外科切除を選択していたのに対し、2臓器以上に転移のある患者では、69.2%(9/13例)がTKI単独治療を選択していた。また、肝転移例のうち、転移巣が3個以下の22例中17例(77%)で外科切除が施行されたのに対し、転移巣が6個以上の8例中5例(62.5%)ではTKI単独治療が選択されていた。
ST群は、DT群に比べて再発時年齢中央値が有意に低く(62.6歳 vs. 71.0歳、p<0.001)、無病期間中央値が長い傾向がみられた(23.1ヵ月 vs. 16.6ヵ月、p=0.064)。5年OSはST群およびDT群において、それぞれ71.1%および60.2%であったが、有意差はなかった(p=0.207、図a)。

癌遺残の有無別にみた臨床的特徴および予後

ST群の切除状況は、R0切除29例(58%)、R1切除5例(10%)、R2切除13例(26%)であり、残る3例は不明であった。R0/R1切除率は、肝転移例では80.7%(21/26例)であるのに対し、腹膜播種例では50%(8/16例)と低かった。
R0/R1切除例(34例)とR2切除例(13例)の間で臨床的特徴を比較した結果、再発巣切除前のTKI治療期間は、R2切除群が有意に長かった(中央値8ヵ月 vs. 33ヵ月、p=0.026)。肝転移巣3個以下の患者(17例)は、いずれもR0/R1切除であったのに対し、肝転移巣4個の患者(2例)は2例中1例がR2切除であり、肝転移巣6個の患者(3例)は、いずれもR2切除であった。
R0/R1切除例の5年OSは82.2%であり、R2切除例(47.0%)に比べて有意に優れていた(p=0.018、図b)。

TKI治療と予後の関係

R2切除例は、13例中12例が再発巣切除後にTKI治療を受けていた。残るST群の37例(R0/R1切除または切除状況不明例)のうち、21例(56.8%)は再々発治療のために、12例(32.4%)は再々発予防のためにTKI治療を受けており、再発巣切除後に無治療で非再発であったのは、わずか4例(10.8%)であった。ST群全体でみると、再発巣切除後にTKI治療を受けていたのは50例中45例(90.0%)であった。
ST群、DT群ともに、再発/転移後の生存期間とTKI治療期間の間には強い相関が認められた(ピアソンの相関係数 それぞれ0.766および0.932、いずれもp<0.001、図c)。
単変量解析の結果、OSと有意に関連する因子として、原発部位(p=0.033)、癌遺残度(p=0.046)、TKI治療期間(p<0.001)が同定された。さらに多変量解析では、TKI治療期間(ハザード比0.955、95%信頼区間0.94~0.98、p<0.001)と癌遺残度(DT群 vs. R0/R1群、ハザード比0.145、95%信頼区間0.04~0.50、p=0.002)がOSの有意な独立因子として同定された()。

図 全生存曲線
図 全生存曲線
表 OSに関する単変量/多変量Cox回帰分析
因子 単変量解析 多変量解析
ハザード比 95%信頼区間 p ハザード比 95%信頼区間 p
年齢 1.02 0.98~1.06 0.209      
性別 0.894 0.41~1.95 0.778      
  男性(対照)            
  女性            
原発部位 2.339 1.07~5.10 0.033 1.89 0.76~4.70 0.171
  胃(対照)            
  その他            
転移部位 1.54 0.71~3.33 0.272      
  肝(対照)            
  その他            
癌遺残度(対照:DT群)            
  R2 1.386 0.53~3.62 0.505 0.771 0.26~2.33 0.645
  R0/R1 0.373 0.14~0.98 0.046 0.145 0.04~0.50 0.002
TKI治療期間 0.964 0.950~0.979 <0.001 0.955 0.94~0.98 <0.001

結論

ST群とDT群のOSに有意差はなく、再発後の生存期間は、両群ともにTKI治療期間と強く相関していた。また、R0/R1切除例は、R2切除例に比べてOSが有意に優れていた。以上より、再発/転移GISTの生存延長においては、TKI治療の継続が最も重要であり、外科切除を施行する場合には、R0/R1切除を達成する必要があると考えられる。
本結果を踏まえると、転移巣4個未満かつ総腫瘍径100 mm未満で根治切除が期待できる症例においては、外科切除とTKI治療を組み合わせることで、生存延長が得られる可能性があるだろう。

コメント

再発/転移GISTに対する治療の第一選択はイマチニブを始めとしたTKI治療である。本邦のGIST診療ガイドラインでは外科切除は単発または数個までの切除可能肝転移、局所再発のみの場合におけるオプション治療という位置づけである。本論文においても外科治療群、薬物療法群ともにTKIの投与期間と生存期間には相関関係が認められており、このことは現在有効とされている3種類のTKIをいかに長く、使いきるかが生存期間延長の鍵となっていることを示している。本論文の外科治療群では時代背景から再発時にTKIを使用することなく初回治療として外科切除を選択している症例が多いが、長期生存例の多くはR0/R1切除が行われ、術後に長期間のTKI治療が継続されている。現在ではTKI治療中に外科介入が考慮されることのほうが多いが、同様にR0/R1切除を行うことが予後の延長に寄与する可能性がある。ただし手術を行う場合は術後早期からTKI治療が再開可能であり、その後も長期間にわたり治療継続ができることが重要である。よって外科的介入の対象の選択、術式、タイミングについては慎重な対応が求められる。

引用文献

  • 1)Rubió-Casadevall J, et al. Ann Surg Oncol. 2015; 22: 2948-2957
  • 2)Gronchi A, et al. Ann Surg. 2007; 245: 341-346
  • 3)Zaydfudim V, et al. J Surg Res. 2012; 177: 248-254
  • 4)Hakimé A, et al. Cardiovasc Intervent Radiol. 2014; 37: 132-139
  • 5)Vassos N, et al. Ann Hepatol. 2015; 14: 531-539