文献紹介

定説の再考:胃GISTと小腸GISTの生存率は同等である
~SEERデータベースに基づく傾向スコア解析~

Revisiting a dogma: similar survival of patients with small bowel and gastric GIST. A population-based propensity score SEER analysis
Guller U, et al. Gastric Cancer. 2017; 20: 49-60
大阪大学大学院医学研究科 外科学講座消化器外科 菅生貴仁

背景・目的

消化管間質腫瘍(GIST)において、小腸GISTは胃GISTに比べて予後不良であるとされ1-4)、腫瘍径、核分裂像数に加えて原発部位を考慮したGISTの術後再発リスク分類(AFIP分類)では、小腸GISTは遠隔転移やがん関連死のリスクが高いとされている1)。本分類は、欧州腫瘍内科学会(ESMO)のガイドラインにも採用され3)アジュバント療法の適応決定の指標として広く使用されている。
本研究では、米国Surveillance Epidemiology and End Results(SEER)データベースに含まれるGIST患者を対象とし、原発臓器別の予後について、多変量解析および傾向スコア解析を用いて検討した。

対象・方法

1998~2011年のSEERデータベースから、組織学的にGISTと診断された18歳以上の患者を抽出し、原発臓器別GIST患者の全生存率(OS)および癌特異的生存率(CSS)を胃GIST患者と比較検討した。また、患者背景の交絡因子を補正するために、傾向スコアマッチングを行ったうえで、同様の解析を実施した。上記に加え、診断年代によるバイアスを除外するために、診断年代別のサブグループ解析も実施した。

結果

患者背景

SEERデータベースから5,096例のGIST患者を抽出した。原発部位は、胃3,011例(59%)、十二指腸313例(6%)、小腸1,288例(25%)、結腸139例(3%)、直腸172例(3%)、消化管外173例(3%)であった。追跡期間中央値は37ヵ月であり、追跡終了時の生存例は3,520例であった。患者の年齢中央値は62歳であり、女性が47%、白人が69%を占めていた。部位別の平均核分裂像数(/50HPF)は、胃2.8±3.7、十二指腸3.6±3.7、小腸4.3±4.2、消化管外2.8±3.0であった(p<0.001)。

単変量生存解析

単変量解析の結果、結腸および消化管外GISTのOSおよびCSSは、胃GISTに比べて有意に不良であった。これに対し、十二指腸および小腸GISTの予後は胃GISTと同等であった。原発巣切除後の非転移例のみを対象とした解析でも、結果は同様であった()。

図 原発部位別の生存曲線
図 原発部位別の生存曲線

多変量生存解析

Cox比例ハザード多変量解析の結果、十二指腸および小腸GISTのOSは、胃GISTと同等であった(それぞれハザード比 [HR] 0.95、95%信頼区間 [CI] 0.76~1.19、およびHR 0.97、95%CI 0.85~1.10)。同様に、十二指腸および小腸GISTのCSSも、胃GISTと同等であった(それぞれHR 0.99、95%CI 0.76~1.29、およびHR 0.95、95%CI 0.81~1.10)。これに対し、結腸および消化管外GISTのOSは、胃GISTに比べて有意に不良であり(それぞれHR 1.40、95%CI 1.07~1.83、およびHR 1.42、95%CI 1.14~1.77、p=0.007)、結腸および消化管外GISTのCSSも、胃GISTに比べて有意に不良であった(それぞれHR 1.89、95%CI 1.41~2.54、およびHR 1.43、95%CI 1.11~1.85、p<0.001)。
原発部位のほか、腫瘍径10 cm超、遠隔転移、リンパ節転移、高齢、配偶者なしは、CSS不良およびOS不良と有意に関連していた(いずれもp<0.001)。一方、原発巣切除、女性、2003年以降の診断例は、CSS良好およびOS良好と有意に関連していた(いずれもp<0.001)。

傾向スコアマッチング

傾向スコアマッチングにより、背景因子が完全に一致した5つのコホート(胃GIST vs. 十二指腸、小腸、結腸、直腸、消化管外GIST)を作成し、OSおよびCSSを比較した結果、胃GISTとの間に有意差を認めたのは、結腸GISTと消化管外GISTのみであり、十二指腸、小腸および直腸GISTに関しては、有意差は認められなかった。

診断時期別のサブグループ解析および感度分析

診断年代別(1998~2004年、2005~2011年)にサブグループ解析を行った結果、両グループともに主解析と同様、結腸および消化管外GISTのCSSおよびOSは不良であった。
また、主解析には核分裂像数のデータ*が含まれていなかったことから、核分裂像数を含めたモデルで感度分析を行ったが、結果は変わらなかった。
*2009年以降の患者のみがデータを有するため、主解析には含めなかった。

結論

本研究から、定説に反して、交絡因子調整後の小腸GISTのOSおよびCSSは、胃GISTと同等であることが示された。一方、結腸および消化管外GISTは、胃GISTに比べて予後不良であった。これらの知見は、小腸GIST患者のアジュバント治療の意思決定に影響を有するかもしれない。

引用文献

  • 1)Miettinen M, et al. Semin Diagn Pathol. 2006; 23: 70-83
  • 2)Miettinen M, et al. Am J Surg Pathol. 2006; 30: 477-489
  • 3)European Society for Medical Oncology. Ann Oncol. 2012; 23 (Suppl 7): vii49-55
  • 4)Nishida T, et al. Gastric Cancer. 2016; 19: 3-14

コメント

一般的に、小腸GIST患者は胃GIST患者と比較して予後が悪いとされ、AFIPリスク分類では腫瘍径や核分裂像に加えて、3つ目のリスク因子としてGIST原発部位が追加されている。また、小腸GISTは遠隔転移や腫瘍関連死のハイリスク因子の一つであると考えられてきた。
本研究は、1998~2011年における米国Surveillance Epidemiology and End Results(SEER)データベースに含まれるGIST患者を対象として、原発部位によるGIST患者の予後を胃GIST患者と比較した報告である。この大規模データから抽出された5,096人のGIST患者を対象とした本研究は、小腸GIST患者と胃GIST患者の予後に差異を認めないという結果であった。本研究の結果は、これまでの報告と大きく異なるものであるが、サンプルサイズも大きく、従来の多変量解析だけでなく、傾向スコアマッチングによる検討も行われており、その点で非常に興味深い。
本研究の結果を踏まえると、術後再発のリスク因子である小腸GISTに対するイマチニブ補助療法は再考する余地が出てくる可能性がある。より詳細かつ大規模データによる検証が待たれるところである。