文献紹介

日本人GIST患者を対象とした製造販売後調査におけるスニチニブの安全性・有効性および予後マーカーの解析

Safety, efficacy and prognostic analyses of sunitinib in the post-marketing surveillance study of Japanese patients with gastrointestinal stromal tumor
Komatsu Y, et al. Jpn J Clin Oncol. 2015; 45: 1016-1022
北海道大学病院腫瘍センター 小松嘉人

背景・目的

スニチニブは、わが国において2008年4月にイマチニブ抵抗性GISTに対する適応を取得したが、日本人GIST患者における有効性、安全性に関してはいまだ十分な情報がない。本製造販売後調査は、日本人患者における安全性、有効性データを収集することを目的として、承認時に全例に対する実施が義務付けられたものであるが、ここでは、その解析結果を報告する。加えて、プレリミナリーな研究において、一部のスニチニブ関連有害事象が有効性のバイオマーカーとなる可能性が示されていることから1-4)、スニチニブ関連有害事象の効果予測マーカーとしての可能性についてもレトロスペクティブに検討した。

対象・方法

2008年6月13日(スニチニブ発売日)以降にスニチニブ治療を受けたすべてのGIST患者を対象とした。観察期間は24週間であり、主な評価項目は安全性、ならびに24週時の客観的奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存率(OS)であった。また、PFSおよびOSに関しては、1コース目(6週間)のrelative dose intensity(RDI)*、およびベースラインのECOG PSに基づくサブグループ解析も行った。スニチニブの有効性と早期における主な有害事象との関連を、Cox比例ハザードモデルを用いて解析した。

*推奨用量である50 mg/日を4/2スケジュール(4週投与後に2週休薬)で投与した場合の総投与量1,400 mg(50 mg×28日)に対する実際の総投与量の割合

結果

ベースラインの患者背景

2008年6月~2009年11月に登録された471例のうち、470例を安全性および生存解析対象、386例をORRの解析対象とした。470例の年齢中央値は64歳であり、男性は296例(63%)、ECOG PS 0~1の患者は455例(97%)、転移例は442例(94%)であった。原発巣および転移巣の切除例はそれぞれ398例(85%)および227例(48%)であり、イマチニブ以外の薬物療法歴および放射線治療歴がある患者はそれぞれ64例(14%)および14例(3%)であった。全例にイマチニブの前治療歴があったが、適応内使用の患者は466例であり、このうち458例がイマチニブ抵抗性/不耐容例であった。

投与状況

全例が4週投与2週休薬のスケジュールでスニチニブを内服した。初回投与量は50 mg/日 413例(88%)、37.5 mg/日 41例(9%)、25 mg/日14例(3%)であった。観察期間24週間にわたり治療を継続した患者は212例(53%)であった。スニチニブを減量した患者は262例、中止した患者は283例であった。初回投与量別の減量投与例は、50 mg/日246/413例(60%)、37.5 mg/日15/41例(37%)、25 mg/日1/14例(7%)であった。追跡期間中央値は23.6週(範囲:1.1~105.1週)であった。

安全性解析

主な有害事象は、血小板減少(66%)、白血球減少(49%)、手足症候群(45%)であった。グレード3以上の有害事象は329例(70%)に発現し、主なものは、血小板減少(33%)、好中球減少(22%)、白血球減少(15%)、貧血(12%)、高血圧(11%)、手足症候群(9%)であった。主な有害事象の発現時期(中央値)は、甲状腺機能低下(52.0日)を除いて、初回投与後6週間以内であった。好中球減少および貧血は比較的発現が遅いのに対し(それぞれ29.0日および42.0日)、発熱および高血圧は早期に発現した(それぞれ13.0日および14.0日)。グレード3以上の有害事象の多くは、初回投与後6週間以内に発現していた。重篤な有害事象は196例(42%)に発現し、主なものは血球減少であった。
多変量Cox比例ハザードモデルを用いて、グレード3以上の有害事象の発現と関連する背景因子を検討した結果、有意な因子として女性、65歳以上、放射線治療歴が同定された。

有効性解析

24週後のORRは20%[95%信頼区間(CI)16~24;386例中CR 2例、PR 75例]であり、SDは43%(167例)、PDは28%(109例)であった。
生存解析対象470例のPFS中央値は22.4週(95%CI 21.7~24.0)であった。サブグループ解析の結果、投与開始後6週間のRDIが70%以上の患者群は、70%未満の群に比してPFSが有意に延長していた(中央値24.0 vs. 20.1週、p=0.011)。また、ベースラインのECOG PSが0の患者群は、1以上の患者群に比してPFSが有意に延長していた(24.1 vs. 16.9週、p<0.001)。
生存解析対象470例の24週後のOSは91%(95%CI 88~94)であり、サブグループ解析の結果、投与開始後6週間のRDIが70%以上の患者群、およびベースラインのECOG PSが0の患者群はOSが有意に良好であった(RDI 94% vs. 83%、p<0.001;ECOG PS 96% vs. 83%、p<0.001)()。

図 全患者(a)およびRDI別(b)、ECOG PS別(c)の全生存曲線
全患者(a)およびRDI別(b)、ECOG PS別(c)の全生存曲線

主な有害事象と抗腫瘍効果の関連性

早期(12週以内)に発現した主な有害事象とPFSの関係について、RDIで補正後のCox比例ハザードモデルを用いて解析した結果、手足症候群、好中球減少、白血球減少、高血圧、血小板減少はPFS延長と有意に関連していた()。血小板減少の重症度は、PFS延長と有意に関連していなかった。また、手足症候群および白血球減少は、RDIに加えてベースラインのECOG PSを共変量とした場合でもPFS延長と有意に関連していた()。

表 主な早期有害事象とPFSの関連
因子 発現時期中央値(日) PFS中央値(週) 共変量:RDIのみ 共変量:RDI+ECOG PS
有害事象発現例 有害事象非発現例 ハザード比 95%CI ハザード比 95%CI
RDI 24.0a 20.1b 0.664c 0.478 0.920 0.723d 0.520 1.005
ECOG PS 24.1e 16.9f 0.443d 0.322 0.609
高血圧 14.0 24.1 22.1 0.663g 0.453 0.970 0.726 0.495 1.064
口内炎 17.0 24.1 22.3 0.677 0.449 1.019 0.739 0.49 1.114
下痢 18.0 24.0 22.4 0.808 0.504 1.295 0.839 0.524 1.344
血小板減少 19.0 23.1 22.4 0.671g 0.483 0.931 0.744 0.535 1.035
食欲減退 19.5 24.1 22.4 0.743 0.480 1.153 0.731 0.471 1.136
手足症候群 21.0 23.3 22.3 0.595g 0.427 0.830 0.636g 0.456 0.888
白血球減少 25.0 23.3 22.3 0.657g 0.474 0.910 0.683g 0.492 0.948
好中球減少 29.0 24.1 22.4 0.643g 0.448 0.922 0.744 0.517 1.071
貧血 42.0 24.0 22.4 0.892 0.612 1.302 0.809 0.553 1.183
甲状腺機能低下 52.0 24.0 22.4 0.729 0.434 1.225 0.768 0.457 1.291

aRDI≧70%のサブグループにおけるPFS中央値
bRDI<70%のサブグループにおけるPFS中央値
cRDIのみを含むモデルでの解析結果
dRDIとECOG PSを含むモデルでの解析結果
eECOG PS=0のサブグループにおけるPFS中央値
fECOG PS≧1のサブグループにおけるPFS中央値
g有意水準α=0.05でハザード比が有意に低下(いずれかのモデルで有意であった有害事象は太字で示す)

結論

日本人のイマチニブ抵抗性/不耐容GIST患者におけるスニチニブの有効性および忍容性は良好であることが示された。また、スニチニブの有効性はRDI、ECOG PSと正相関することが示され、一部のスニチニブ関連有害事象は、抗腫瘍効果の早期マーカーとなる可能性が示唆された。以上の結果から、スニチニブの治療効果を最大化するためには、有害事象の綿密なモニタリングと管理が必要であると考えられる。

引用文献

  • 1)Donskov F, et al. Eur J Cancer. 2011; 47(suppl 1): S135 (abstract 1138)
  • 2)George S, et al. Ann Oncol. 2012; 23: 3180-3187
  • 3)Puzanov I, et al. J Clin Oncol. 2011; 47(suppl): (abstract e21113)
  • 4)Davis MP, et al. Eur J Cancer. 2011; 47(suppl 1): S135 (abstract 1140)

コメント

一般的にスニチニブ治療は、副作用マネージメントが困難とされており、実際に投与開始早期に治療中止に至る症例が多い。しかし、本論文の解析にて、治療早期の有害事象と効果が相関しており、特に手足症候群と白血球減少は強い相関があることが示された。従って、早期の有害事象をうまくマネージメントし、スニチニブ投与を継続できれば、生存期間の延長に繋がる可能性が示されたので、臨床医はそのことを強く意識し、支持療法の工夫や患者への指導をすべきである。