文献紹介
標準的なチロシンキナーゼ阻害薬無効後の転移/切除不能GISTを対象としたレゴラフェニブの多施設共同第II相試験の長期追跡結果
Long-term follow-up results of the multicenter phase II trial of regorafenib in patients with metastatic and/or unresectable GI stromal tumor after failure of standard tyrosine kinase inhibitor therapy
Ben-Ami E, et al. Ann Oncol. 2016; 27: 1794-1799
横浜労災病院消化器内科 地口 学
背景・目的
経口マルチキナーゼ阻害薬レゴラフェニブは、イマチニブ・スニチニブ耐性GISTを対象とした第II相試験1)、ならびにプラセボ対照国際共同第III相試験(GRID試験)2)の成績に基づき、世界各国で進行GISTの三次治療薬として承認され、使用されている。第II相試験については、これまでに追跡期間11ヵ月(中央値)時点での解析結果が報告されているが1)、本稿では、その最終解析の結果について、遺伝子変異型や18F-フルオロデオキシグルコース(FDG)-PETによる治療効果判定との関連性なども含めて報告する。
対象・方法
本試験は、医師主導型の多施設共同オープンラベル第II相試験として、2010年2月~2014年1月に実施された。対象は、イマチニブ不応または不耐かつスニチニブ不応の転移/切除不能GIST成人患者であった。レゴラフェニブ(160 mg/日)は、28日を1サイクル(3週投与1週休薬)とし、投与を繰り返した。有効性の主要評価項目は、RECIST 1.1基準に基づく臨床的有効割合(CBR;CR+PR+16週以上持続するSDの患者割合)であった。副次的評価項目は、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、FDG-PETによるmetabolic response(EORTC基準)、安全性などであった。
結果
対象
米国の3施設から34例が登録され、不適格例1例を除く33例にレゴラフェニブが投与された。試験終了時点での追跡期間中央値は41ヵ月(範囲3.2~44.9ヵ月)であった。試験終了前に治療を中止した患者は29例であり、その主な理由は病勢進行(60%)、医師の判断(12%)などであった。GIST原発巣の遺伝子解析は33例中30例で実施された。
有効性
CBRは76%[25/33例、95%信頼区間(CI)58~89%]であり、PR 6例、16週以上持続するSD 19例であった。また、16週未満のSDは5例、PDは2例、評価不能は1例であった。PRが得られた6例の遺伝子型は、SDH欠失型2例、KITエクソン11変異2例、KITエクソン9変異1例、不明1例であった。CBRは、遺伝子型により異なっていた(表)。
全体のPFS中央値は13.2ヵ月(95%CI 9.2~18.3ヵ月)であった(図)。PFS中央値は、KITエクソン11変異が最も良好であり(13.4ヵ月、15例)、次いでSDH欠失型(10ヵ月、6例)、KITエクソン9変異(5.7ヵ月、2例)、SDH欠失のない野生型(1.6ヵ月、2例)の順であった(p<0.0001、表)。4例(12%)は、臨床的有効性が3年以上持続していた(範囲36.8~43.5ヵ月)。これら4例の遺伝子型は、SDH欠失型2例、KITエクソン11変異1例、KITエクソン9変異1例であり、いずれの患者も試験期間中に用量調節を行っていた。
試験終了時の生存例は9例(27%)であり、OS中央値は25ヵ月(95%CI 13.2~39.1ヵ月、図)、1年生存率は79%(95%CI 61~89%)であった。遺伝子型別のOSに有意差はなかった(p=0.77)。
遺伝子型 | 症例数 | 臨床的有効例(例) | CBR(%) | 95%信頼区間 | PFS中央値(ヵ月) |
---|---|---|---|---|---|
KITエクソン11変異 | 19(59%) | 15 | 79 | 54~94% | 13.4 |
KITエクソン9変異 | 3(9%) | 2 | 67 | 9~99% | 5.7 |
SDH欠失型 | 6(18%) | 6 | 100 | 54~100% | 10 |
BRAFエクソン11変異 | 1(3%) | 0 | 0 | — | NAa |
SDH変異不明、 BRAF野生型 |
1(3%) | 0 | 0 | — | NAb |
遺伝子型不明 | 3(9%) | 2 | 67 | 9~99% | NAc |
計 | 33 | 25 | 76 | 58~89% | 13.2 |
a 1例のみであったため、PFS中央値は算出せず。本症例のPFSは1.6ヵ月であった。
b 1例のみであったため、PFS中央値は算出せず。本症例のPFSは3.6ヵ月であった。
c PFS中央値は、遺伝子型の判明している患者のみで算出した。全体のPFS中央値を算出する際には、これらの患者も含めた。

FDG-PETを用いた関連研究
33例中31例において、ベースラインおよび1サイクル目の18~21日目にFDG-PETが施行された。Complete metabolic responseは5例(KITエクソン11変異4例、SDH欠失型1例)、partialおよびstable metabolic responseはそれぞれ16例および6例であった。Metabolic responseが得られた患者は、得られなかった患者に比べて、CBRおよびPFSが良好な傾向にあった(CBR 85% vs. 60%、p=0.18;PFS中央値 15.8ヵ月 vs. 7.3ヵ月、p=0.4)。
KITエクソン11変異では、約83%の患者でmetabolic responseが得られた。また、SDH欠失型の1例は、complete metabolic responseであった。
安全性
試験終了時点で、レゴラフェニブは延べ593サイクル投与され、患者あたりの投与サイクル中央値は15サイクルであった。全例にグレード2以上の治療関連毒性が認められ、31例はグレード3~4の毒性を経験していた。被験薬との因果関係が否定できない主な毒性は、手足皮膚反応(91%)、倦怠感(85%)、下痢(79%)、高血圧(76%)などであった。高グレードの毒性は早期に発現することが多く、初回発現時期(中央値)は1サイクル目であった。22例は被験薬投与中にグレード3または4の毒性を発現していた。
多くの患者で、毒性により投与スケジュールの変更や用量調節が行われていた。64%の患者が投与延期、88%の患者が休薬を要した。また、27例(82%)は、プロトコールに規定された毒性により被験薬の減量を行い、このうち18例(66%)で再増量が行われた。全体の忍容可能な最終用量は、160 mg 13例(40%)、120 mg 9例(27%)、80 mg 7例(21%)、40 mg 4例(12%)であった。減量の主な理由は、手足皮膚反応およびグレード3以上の非血液毒性であった。
結論
レゴラフェニブで治療された進行GISTの長期追跡から、本剤は、特にKITエクソン11変異GISTおよびSDH欠失型GISTに対して高い有効性を示すことが明らかになった。治療関連毒性のために多くの患者で減量や休薬を要したが、毒性による治療中止は稀であり、一部の患者は3年以上治療を継続することが可能であった。
引用文献
- 1)George S, et al. J Clin Oncol. 2012; 30: 2401-2407
- 2)Demetri GD, et al. Lancet. 2013; 381: 295-302
コメント
フォローアップ間隔・効果判定基準・遺伝子変異背景などが異なるとはいえ、本試験でのPFSがGRID試験の結果(median PFS:4.8ヵ月)より大幅に延長していたのは興味深い。特に、2次変異を解析できた9例中、KIT exon 17変異例(7例)のmedian PFSは22ヵ月であり、これまでin vitroで認められたレゴラフェニブのactivation loop変異への有効性が再確認された点は大きい。またSDH欠失型WT GISTは一般におとなしい性格のGISTであるが、6例全例でclinical benefitが得られ、そのうち2例でPR、1例でFDG-PETによるmetabolic CRが得られており、転移/再発性SDH欠失型WT GISTに対する有効性も示された。このタイプのGISTはVEGFを高発現しているため、レゴラフェニブの持つVEGFR阻害作用によるものと著者らは考えている。今後は実臨床においても、どのタイプのWT GISTなのかまで確認する必要があるだろう。レゴラフェニブの安全性に関しては、スニチニブ同様に柔軟な用量・投与スケジュール調節により長期投与が可能である。特に重篤な副作用が起こりやすい投与2サイクル目までは、慎重な経過観察が必要である。