文献紹介

PDGFRαは、ETV1の安定化を介してKIT変異を有するGIST細胞の増殖を制御する

Platelet-derived growth factor receptor-α regulates proliferation of gastrointestinal stromal tumor cells with mutations in KIT by stabilizing ETV1
Hayashi Y, et al. Gastroenterology. 2015; 149: 420-432
川崎医科大学 臨床腫瘍科 山村真弘

背景・目的

GISTの多くは、KITまたは血小板由来増殖因子受容体α(PDGFRAの活性型変異体を発現しており、初期にはイマチニブに反応するが、治療継続に伴う二次耐性の出現が問題とされている1)
近年、イマチニブ治療を受けたGIST患者の切除標本において、KITと野生型PDGFRAが共発現していることや2)、KITとPDGFRAがヘテロ二量体を形成し、イマチニブ存在下で活性化し続けることが報告されており2,3)KIT変異を有するGISTの生存・増殖にPDGFRAが重要な役割を担う可能性が示唆されている。
そこで本研究では、GISTおよびその起源とされるカハール介在細胞(ICC)においてKITとPDGFRAの共発現の状況を検討するとともに、KIT変異を有するGISTにおいて、PDGFRAの選択的阻害が細胞増殖に及ぼす影響やそのメカニズムを解析した。

方法

研究には、マウスの胃より採取したICCおよびその幹細胞(ICC-SC)、GIST患者53例の切除標本、ならびにKIT変異を有するヒトGIST細胞株(イマチニブ感受性株:GIST-T1、GIST882、イマチニブ耐性株:GIST-T1-5R、GIST-T1-10R、GIST48B、GIST48)を用いた。PDGFRAの阻害は、RNA干渉(RNAi)またはPDGFRA/Bの選択的阻害剤crenolanibを用いて行った。細胞増殖の評価は、MTSアッセイ、EdUアッセイ、Ki-67免疫染色により行った。ICCやICC-SC、PDGFRA+細胞サブセットの同定には、フローサイトメトリーおよび免疫組織化学法を用いた。蛋白の発現量やリン酸化は、免疫ブロット法により評価した。In vivoにおけるcrenolanibの抗腫瘍作用は、マウス異種移植モデルを用いて解析した。

結果

KITとPDGFRAの共発現は、成体マウスのICCの3~5%、ICC-SCの35~44%に認められた。また、ヒトGIST標本では、KIT陽性GISTの90%(45/50例)がPDGFRA陽性であった。GIST細胞株では、GIST-T1、GIST882、GIST-T1-5Rにおいて、KITとPDGFRAの共発現が確認された。
GIST-T1、GIST882、GIST-T1-5R細胞にsiRNAを導入し、PDGFRAをノックダウンすると、イマチニブ感受性の有無にかかわらず、細胞増殖は抑制された(1A, 1C)。これらの細胞におけるcrenolanibの細胞増殖抑制作用を検討した結果、50%阻害濃度(IC50)は5~23 nMであった(1B)。一方、KITPDGFRAPDGFRB+細胞株(GIST-T1-10R、GIST48B)やKIT+PDGFRAPDGFRB+細胞株(GIST48)に対するcrenolanibのIC50は230 nM以上であった(1B)。
Crenolanibは、イマチニブ感受性株および耐性株のいずれにおいてもPDGFRAのリン酸化を阻害したが、KITのリン酸化は阻害しなかった。一方、野生型ICC-SC細胞株(KITPDGFRA+PDGFRB+)のcrenolanibに対する感受性は、野生型KITを過剰発現させると増強されたことから、crenolanibの細胞増殖抑制作用にはPDGFRAに加えて、KITが必要であることが示唆された。また、crenolanibを長期処置した細胞では、PDGFRAとKITの蛋白発現がともに抑制された。
次に、GISTの増殖ならびにcrenolanibの細胞増殖抑制作用における転写因子ETV1の関与について検討した。ETV1の蛋白発現は、crenolanib感受性細胞では認められたが、crenolanib非感受性細胞では認められなかった。Crenolanib感受性細胞株において、siRNAによりETV1をノックダウンすると、細胞増殖およびKITの発現が抑制された。本結果から、ETV1はKITの発現制御を介して細胞増殖に関与することが示唆された。さらに、これらの細胞株をcrenolanibで処置すると、ERK1/2のリン酸化抑制ならびにETV1の発現低下が観察された。このETV1の発現低下はプロテアソーム阻害剤により回復したことから、crenolanibは、ERK1/2の阻害を介してプロテアソーム分解を促進することによりETV1の細胞内レベルを低下させることが示唆された。
GIST-T1細胞株をヌードマウスに異種移植し、crenolanib(12.5 mg/kg)を1日2回30日間腹腔内投与した結果、体重減少を伴うことなく、腫瘍増殖が抑制された。Crenolanib投与マウスの移植片では、ERK1/2のリン酸化ならびにPDGFRA、KIT、ETV1の発現が抑制されていた。

図1 KIT変異を有するGIST細胞株で認められたPDGFRA阻害による細胞増殖抑制作用
図1 KIT変異を有するGIST細胞株で認められたPDGFRA阻害による細胞増殖抑制作用
データは平均±標準誤差で示した(図1Aは各群n=6, 図1BおよびCは各群n=3)。統計解析にはMann-Whitney順位和検定を用い、p<0.05を統計学的に有意とみなした。

結論

本研究から、KIT変異を有するGISTにおいて、crenolanib またはRNAiによるPDGFRAの阻害は、ERKのリン酸化抑制を介して、ETV1のプロテアソーム分解を促進し、細胞増殖を抑制することが示唆された(2)。Crenolanibは現在、PDGFRAエクソン18D842変異を有する進行GISTを対象に臨床試験が進行中であるが、イマチニブ耐性GISTを含むETV1陽性のGISTに対しても有効な可能性があると考えられる。

図2 PDGFRA阻害による細胞増殖抑制作用の発現機序(推定)
図2 PDGFRA阻害による細胞増殖抑制作用の発現機序(推定)
(A)通常状態において、変異型/野生型KITと野生型PDGFRAは、協調してERKを活性化し、ETV1の分解を抑制している。ETV1は、KITなどのICC/GIST特異的な遺伝子の転写を促進し、細胞増殖や腫瘍化をもたらす。
(B)PDGFRAをノックダウンまたはcrenolanib(赤丸)などで阻害すると、ERKの活性化が抑えられ、ETV1の分解が促進されるために、KITなどの標的遺伝子の発現が低下し、細胞増殖が抑制される。

TF:他の転写因子
ICC/GIST genes; KIT:KITなどのICC/GIST特異的な遺伝子

コメント

GISTは、KITおよびPDGFRA遺伝子の機能獲得性変異により増殖すると考えられており、多くはイマチニブが有効性であるが二次耐性の問題がある。二次耐性の原因として、KIT遺伝子の二次変異、他のシグナルの活性化、KITとPDGFRAのヘテロ二量体による活性化などが報告されているが不明な点も多い。
この研究ではGISTの増殖におけるPDGFRAの存在の重要性を明らかにしている。まず、マウス胃のICCおよびICC-SC、KIT陽性GIST患者標本、GIST細胞株のすべてでKITおよびPDGFRAの共発現を確認し、KIT遺伝子変異を有するGIST細胞やイマチニブ耐性細胞でPDGFRAを抑制するとイマチニブの感受性にかかわらず、細胞増殖抑制がおこる。さらに、PDGFRA阻害による細胞増殖抑制効果を得るためには、KITの発現が重要であり、ERKのリン酸化抑制を介したETV1分解促進によるKITの発現低下によるものであることも明らかにしている。この結果から、crenolanibはPDGFRAエクソン18 D842V阻害を目的とした臨床試験が進行中だが、ETV1を有するGISTも標的になる可能性が期待できる。
ETV1は、転写因子ETSファミリーの一つである。2010年のNatureでGISTにおけるKITとのETV1の関連性が報告され、ETV1阻害によるGIST治療の可能性が期待された。本研究でPDGFRAとETV1の関連性も明らかになった。
以前は、がんの網羅的遺伝子解析などで複数の転写因子などが同定されても、転写因子はがんの治療標的にはならないと考えられていたが、現在はがんにおける転写後発現調節の重要性が認識され、がん治療の標的としても多くの研究が行われている。GISTにおいても他のがんの原因と同様に、遺伝子変異がよく知られているが、遺伝子変異がなくても転写後のRNAやタンパク質に異常があるとがんを引き起こすことがある。今後、GISTにおいても研究が進み、転写因子、転写後発現調節にかかわる分子を標的とした薬剤が登場することが期待される。

引用文献

  • 1) Corless CL, et al. Nat Rev Cancer. 2011; 11: 865-878
  • 2) Negri T, et al. J Pathol. 2009; 217: 103-112
  • 3) Zhu MJ, et al. Oncogene. 2007; 26: 6386-6395