文献紹介
GIST患者の血漿におけるKITおよびPDGFRA遺伝子変異の検出
Detection of KIT and PDGFRA mutations in the plasma of patients with gastrointestinal stromal tumor
Kang G, et al. Target Oncol. 2015 [Epub ahead of print]
大阪大学大学院 消化器外科 和田 範子
背景・目的
進行GIST患者の多くは、治療初期にはイマチニブに反応するが、長期投与に伴い、治療抵抗性となることが知られている。その主な原因は、KITやPDGFRAの二次的な遺伝子変異であり1)、変異部位によってはイマチニブの増量や他のチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)への切り替えが有効であるため2)、二次変異を早期に検出することが重要である。しかし、生検標本を用いた遺伝子変異解析は侵襲的であり、繰り返し施行するのが難しい。また、腫瘍の不均一性を考えると、小さなサブクローンの変異が見落とされる可能性もある3)。
こうした問題を克服すべく、近年、末梢血に存在する腫瘍由来のDNA(circulating tumor DNA:ctDNA)を用いて癌関連遺伝子の変異を検出する方法が開発され、注目されている3,4)。そこで本研究では、次世代シークエンサーを用いて、イマチニブ治療中のGIST患者のctDNAにおける遺伝子変異を検索し、治療反応性との関係を検討した。
方法
自施設の進行GIST患者3例を対象とし、イマチニブ投与中に採取した血漿サンプルからctDNAを抽出し、次世代シークエンサーを用いてKITエクソン9, 11, 13, 14, 17, 18、PDGFRAエクソン18、およびBRAFエクソン15の変異を検索した。
結果
全患者のctDNAにおいて、原発巣で検出されたKIT変異と同一の一次変異が検出された(表)。また、3例中2例は、追跡期間中にctDNAからKITやPDGFRAの二次変異が検出され(表)、治療抵抗性との関連性が示唆された。以下に各患者の臨床経過を示す。
【症例1】神経線維腫症1型(NF1)を有する59歳男性。下腹部痛のためCTを施行したところ、胃に25 cmの腫瘤を認めた。超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)による組織診断で、KIT陽性のGISTと診断され、遺伝子変異解析の結果、KITエクソン11に欠失変異(K558-E562)が検出された。イマチニブ開始3ヵ月後に部分奏効(PR)が得られたが、10ヵ月後の血漿サンプルにて、一次変異のほかにKITエクソン17にミスセンス変異(S821F)が新たに検出され、その6ヵ月後、CTにて骨盤腔に結節性の病変を認めた(図a)。
本症例で検出されたKITエクソン17の変異は、これまでに報告のない新規の変異であり、イマチニブ耐性に関連している可能性があると考える。
【症例2】61歳男性。小腸GISTの切除後、イマチニブ術後補助療法(400 mg/日)が1年間施行された。イマチニブ中止から約1年後、肺および小腸間膜に腫瘤を認め、切除術の結果、GISTの転移と診断された。また、遺伝子変異解析により、これらの転移巣においてKITエクソン9に重複変異(A502-Y503)が検出されたことから、イマチニブでは効果が得られにくいと考えスニチニブを開始した。スニチニブ開始1年後のCTでは、原発病変の切除部位に腫瘍の遺残を認めたほか、肝転移を疑う病変が認められた。同時期に採取した血漿サンプルからは、新たにPDGFRAエクソン18に塩基置換(D842V)が検出された(図b)。
【症例3】82歳女性。小腸GISTの切除後、約20ヵ月後に腹部腫瘤を触知し、臨床所見および画像所見からGISTの肝転移が疑われたため、イマチニブ(400 mg/日)を開始した。投与5ヵ月後にPRが得られ、その後、副作用のためにイマチニブが200 mg/日に減量されたものの、30ヵ月間病勢は安定している。直近の血漿サンプルからは、一次変異であるKITエクソン11の塩基置換(P551A)のみが検出され、新たな変異は認められていない(図c)。

斜体文字は血漿サンプルで新たに検出された変異、上付き文字(a)はサンガー法で検出された一次変異を示す。
PR:部分奏効、PD:進行、SD:安定、HPF:高倍率視野、Del:欠失、Dup:重複

結論
本研究から、GIST患者のctDNAを用いて、KITやPDGFRAの一次変異および二次変異を検出できることが明らかとなった。また、これらの遺伝子変異が薬剤耐性の予測マーカーとなりうることが示唆された。
イマチニブ治療中のGIST患者において、ctDNAを用いて二次変異を検出できるようになれば、より適切なタイミングで、イマチニブの増量や他のTKIへの切り替えが可能になるだろう。今後、コホート研究や大規模な前向き多施設共同研究において、本研究の結果を検証する必要がある。
コメント
本試験は、イマチニブ耐性GISTを持つ患者の末梢血を用いて、耐性病変の二次変異を検索した論文である。近年、末梢血中には腫瘍由来のDNA(ctDNA)が存在することがわかってきた。ctDNAを用いた遺伝子検索は、腫瘍から組織を採取することなく採血だけで腫瘍の持つ遺伝子変異を知ることができることから、新しい検査法として注目されている。これまでにもctDNAを用いて原発GISTの一次変異を検出し、病勢との相関を示した報告は存在したが5)、二次変異についてはこれが初めての報告である。イマチニブ耐性GISTは、その変異部位によってチロシンキナーゼ阻害剤の効果が異なるとされており6)、ctDNAを用いた二次遺伝子変異検索は薬剤を選択する上で有用である。また耐性病変は、手術後の腹腔内深部に存在する病変や骨病変など、検体の採取が難しい場合が多く、この方法を用いて非侵襲的に変異を知ることができれば患者の負担が軽減されると考える。今後この検査法を臨床応用するためには、検出感度の設定を含めた普遍的な検査方法の確立や、今回用いられた次世代シークエンサー以外の方法についての信頼性の検討など、技術的な面での定型化が必要と考える。
引用文献
1) Heinrich MC, et al. J Clin Oncol. 2006; 24: 4764-4774
2) Demetri GD, et al. J Natl Compr Canc Netw. 2010; 8 Suppl 2:S1-41; quiz S42-44
3) Murtaza M, et al. Nature. 2013; 497: 108-112
4) Chan KC, et al. Clin Chem. 2013; 59: 211-224
5) Maier J, et al. Clin Cancer Res. 2013; 19: 4854-4867
6) Nishida T, et al. Expert Opin Pharmacother. 2014; 15: 1979-1989