文献紹介
KITおよびPDGFRA変異とGISTの再発リスク
KIT and PDGFRA mutations and the risk of GI stromal tumor recurrence
Joensuu H, et al. J Clin Oncol. 2015; 33: 634-642
りんくう総合医療センター 外科 西谷暁子
背景・目的
GISTでは、KITまたはPDGFRAの機能獲得性変異が高頻度に認められ、変異部位により、腫瘍の臨床病理学的特徴や予後、イマチニブへの反応性などに差がみられる。これらの遺伝子の変異解析は、イマチニブの治療効果を予測するうえでは有用と考えられるが、既存の予後因子を上回る予後情報をもたらすか否かについては議論がある1-3)。また、KITやPDGFRAの遺伝子変異型は多種多様であり、単一変異についてアウトカムを検討した報告は少ない。
そこで本研究では、GISTの住民ベース研究11件に含まれる肉眼的完全切除例の患者データを統合し、遺伝子変異の頻度や臨床的特徴を解析するとともに、KITまたはPDGFRAの単一変異が無再発生存率(RFS)に及ぼす影響について検討した。
方法
2000年1月~2010年1月に発表されたGISTの住民ベース研究10件4-12)、ならびにフランスのGISTの住民ベース研究(MolecGIST)13)の登録症例のうち、組織学的にGISTと診断されて肉眼的完全切除を受け、遺伝子解析データが入手可能であった1,505例を対象として、遺伝子変異の頻度や臨床的特徴を解析した。また、MolecGISTを除く10研究において、RFSのデータが入手できた821例(追跡期間中央値4.0年、いずれの患者も術前/術後補助療法なし)を対象とし、遺伝子変異とRFSの関連性を検討した。
生存曲線の比較は、Kaplan-Meier法およびlog-rank検定により行った。ハザード比とその信頼区間は単変量Coxモデルを用いて算出し、予後因子はCox比例ハザードモデルを用いて解析した。
結果
PDGFRA変異
PDGFRA変異例は、KIT変異例に比べて再発リスクが低く(ハザード比 [HR]0.34, 95%信頼区間[CI]0.16~0.73, p=0.004)、核分裂像数が低値で、胃GISTの占める割合が高かった。PDGFRAエクソン12変異とエクソン18変異の間でRFSは同等であった。計33種類のPDGFRA変異が同定され、頻度の高い変異はAsp842Val(54.9%)およびVal561Asp(9.2%)であった。
KIT変異
KITエクソン11、13および17変異のRFSは同等であったが、KITエクソン9変異はKITエクソン11変異に比べて予後不良の傾向がみられた。KITエクソン11変異は胃GISTの占める割合が高いのに対し、KITエクソン9、13および17変異は胃以外のGISTの占める割合が高かった。
301種類のKIT変異が同定され、そのほとんどはエクソン11変異(欠失43.8%、置換30.6%、挿入欠失 15.8%)であった。KITエクソン11の欠失変異や挿入欠失変異は再発率が高かったのに対し、KITエクソン11重複変異の再発率は2.9%(1/35例)と低かった(図1A)。また、KITエクソン11の1コドン欠失変異は、2コドン以上の欠失変異や挿入欠失変異に比べて予後良好であった(図1B)。KITエクソン11のコドン557/558に変異を有する患者は、同部位の関与しない変異例に比べて予後不良であった(図1C)。
頻度の高い単一変異
頻度の高い単一変異は、Trp557_Lys558del(KITエクソン11)、Asp842Val(PDGFRAエクソン18)、Ala502_Tyr503dup(KITエクソン9)などであった(それぞれ6.7%、5.6%および5.5%)。主なKIT変異(Trp557_Lys558del、Ala502_Tyr503dup、Val559Asp [エクソン11])のRFSは同等であった(図1D)。一方、主なKITエクソン11置換変異のRFSを比較すると、Trp557Arg、Leu576Pro、Val559Alaは予後良好であるのに対し、Val559Asp、Trp557Glyは予後不良であり(図1E)、同一コドンの置換変異であっても臨床的特徴や予後は異なることが示された。PDGFRA変異に関しては、Asp842置換変異とその他の変異型の間でRFSに差はなかった(図1F)。

p値はlog-rank検定により算出した。
多変量生存解析
多変量解析の結果、KIT変異(vs. PDGFRA変異または野生型)はRFS不良の独立予測因子であったが(HR1.89, 95%CI1.15~3.08, p=0.011)、その影響は既存の予後因子(核分裂像数、腫瘍径、部位)に比べると小さかった。また、エクソン9, 11, 13, 17変異を共変量として同様の解析を行った場合、いずれのエクソンもRFSの有意な独立予測因子ではなかった。
同一の遺伝子変異を有する患者であっても、予後は大きく異なり、特に核分裂像数の影響が大きかった(図2)。多変量解析の結果、Trp557_Lys558del変異例では腫瘍径(HR1.10, 95%CI1.04~1.17, p=0.001)と核分裂像数(HR1.02, 95%CI1.003~1.03, p=0.012)、Val559Asp変異例では腫瘍径、Ala502_Try503dup変異例では核分裂像数がそれぞれRFSの有意な独立予測因子であった。

p値はlog-rank検定により算出した。
AFIPおよびNIHリスク分類
予後良好の変異型(KITエクソン11重複変異、1コドン欠失変異、置換変異 [Trp557Arg, Leu576Pro, Val559Ala]、PDGFRA変異、いずれも5年RFS 82~97%)を有する患者について、AFIP分類14)またはmodified NIH分類15)を用いて再発リスクを評価したところ、患者の約30%が高リスク、約20%が中リスクに分類され、再発リスクが過大評価されている可能性が示された。多変量解析の結果、これらの予後良好の変異型は、AFIP分類またはmodified NIH分類とともに、RFSに独立して影響を及ぼすことが示された。
結論
外科切除のみで治療されたGIST患者において、遺伝子変異解析により、臨床上有用な予後情報が得られた。しかし、同一のKIT変異やPDGFRA変異を有する患者であっても、予後は大きく異なり、核分裂像数など他の予後因子の方がRFSと強く関連することが示された。
遺伝子変異データは、予後良好の変異型を有する患者において、重要な意味を持つと考えられる。例えば、PDGFRA変異例、KITエクソン11重複変異例や1コドン欠失変異例の多くは、外科切除のみで良好なRFSが得られていることから、通常は術後補助療法の適応にならないであろう。
コメント
本研究の指摘するのは、以下の2点である。遺伝子変異型は、予後因子としての影響は従来の因子に比べて強くないこと、また、予後良好の変異例では、従来のリスク分類にて再発リスクが過大評価されている可能性があること。
対象1,505例と、大規模の遺伝子変異解析が行われ、頻度・臨床的特徴といった観点からも、非常に貴重なデータである。一方、遺伝子変異の予後への影響は、これまで十分な解析が行われていなかった。しかし、KIT遺伝子の単独変異のみで301種も同定されるほど多種多様であり、予後も変化に富んでいる。遺伝子変異単独で予後予測につなげるのは困難であり、腫瘍径および核分裂像数といった、従来からの予後因子の影響の方が大きい。ただし、予後良好の変異型では、実際に再発がほとんど認められないにもかかわらず、従来のリスク分類では高および中間リスクに分類され、再発リスクが過大評価される可能性がある。これらの群は、術後補助療法の適応外と考えられ、今後慎重に検討していく必要があろう。
一方、欧州4ヵ国から、大規模な遺伝子解析と予後予測に関する研究16)が報告されている。これによると、従来の予後因子(原発部位、腫瘍径および核分裂像数)に加えて、特定の遺伝子変異(予後不良:KITエクソン11コドン557/558を含む欠失、およびエクソン9重複、予後良好:PDGFRAエクソン18変異)が単独で予後予測に影響するとされる。このように異なる結果が導かれた原因は定かではないが、この研究でも、遺伝子変異型を加味して、補助療法の適正化を図る必要性を指摘している。
遺伝子変異型は、単独での予後予測は困難であっても、補助治療を含めた治療全般にかかわる因子であり、遺伝子変異解析は重要な情報となりうるため、広く行われることが望まれる。
引用文献
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