文献紹介

日本の胃がん検診システムが胃GISTの治療アウトカムに及ぼす影響:GIST登録事業のデータに基づく解析

Impact of the Japanese gastric cancer screening system on treatment outcomes in gastric gastrointestinal stromal tumor (GIST): an analysis based on the GIST registry
Yamamoto K, et al. Ann Surg Oncol. 2015; 22: 232-239
国立病院機構大阪医療センター 外科 山本和義

背景・目的

わが国では、胃GISTは、胃がん検診により偶発的に発見されることが多い。GISTの再発率や予後は、腫瘍径や核分裂像数、原発部位などに依存するため1)、胃がん検診による胃GISTの早期発見は、治療アウトカムの改善につながる可能性がある。そこで本研究では、近畿GIST研究会主導のGIST登録事業のデータを用いて、胃がん検診が胃GISTの治療アウトカムに及ぼす影響を検討した。

方法

近畿GIST研究会によるGIST登録事業は、国内40施設にて2003年1月~2007年12月の間に免疫組織学的にGISTと診断され、治療された患者のデータをレトロスペクティブに集積した観察研究である。今回の解析では、このデータベースから胃GISTのデータを抽出し、有症状例と無症状例の間で患者特性、再発リスク、治療法、予後を比較することにより、胃がん検診が胃GISTの臨床アウトカムに及ぼす影響を評価した。再発リスク分類には、modified NIH分類2)またはAFIP分類3)を用いた。

結果

欠損データのない登録患者は672例であり、このうち482例(71.7%)が胃GISTであった。これらの患者の男女比は258:224、年齢中央値は66歳、腫瘍径中央値は3.6 cmであり、核分裂像数5/50HPF未満の患者は64.1%を占めていた。Modified NIH分類は、高リスク109例(22.6%)、中リスク89例(18.5%)、低リスク173例(35.9%)、超低リスク67例(13.9%)であり、AFIP分類は、高リスク59例(12.2%)、中リスク76例(15.8%)、低リスク49例(10.2%)、超低リスク174例(36.1%)、リスクなし90例(18.7%)であった。2例を除く全例で根治切除が施行されており、イマチニブによる術前および術後補助療法の施行例はそれぞれ4例(0.8%)および32例(6.6%)であった。
有症状例(出血、腹痛、腫瘤など)は152例、無症状例は214例であり、残る116例は症状の有無が不明であった。無症状のGISTは、大部分(165例)が胃がん検診により発見されていた。追跡期間1年未満の患者を除く284例(無症状群147例、有症状群137例)について臨床的特徴を比較した結果、無症状群は有症状群に比べて女性の割合(44.9% vs. 57.7%, p=0.031)、腫瘍径(中央値3.5 cm vs. 5.3 cm,p<0.0001)、核分裂像数5/50HPF超の患者割合(24.5% vs. 36.5%, p=0.014)、高リスク患者の割合(modified NIH分類:21.1% vs. 40.9%, p=0.0002、AFIP分類:9.5% vs. 24.1%, p=0.0004)がいずれも有意に低かった。イマチニブ術後補助療法は無症状群の7例(4.8%)、有症状群の9例(6.6%)で施行されていた。無症状群では、有症状群に比べて腹腔鏡手術(42.2% vs. 27.2%, p=0.0081)ならびに胃局所切除術(85.7% vs. 61.0%, p<0.0001)の占める割合が高かった()。
追跡期間中央値58ヵ月時点で40例(14.1%)に再発がみられ、主な再発部位は肝(60%)および腹膜(35%)であった。Modified NIH分類で超低リスク~中リスクに分類された患者の5年無再発生存率(RFS)は、無症状群、有症状群ともに良好であったが(各97.7%および98.6%、図a)、高リスク患者の5年RFSは、有症状群に比べて無症状群で有意に高かった(72.4% vs. 46.3%, log-rank検定p=0.017, 図b)。この結果は、イマチニブ術後補助療法施行例を除いて解析した場合も同様であった(72.8% vs. 42.2%, p=0.0083, 図c, d)。無症状の高リスク患者は、有症状の高リスク患者に比べて腫瘍径が小さい傾向があり(5.5 cm vs. 10.5 cm, p=0.065)、核分裂像数10/50HPF超の患者割合が有意に低かった(38.7% vs. 58.9%, p=0.039)。AFIP分類を用いた場合、無症状群および有症状群の5年RFSは、リスクなし~中リスク患者においてそれぞれ95.1%および88.9%(p=0.077)であり、高リスク患者ではそれぞれ72.2%および43.9%(p=0.061)であった(図e, f)。
Modified NIH分類により高リスクに分類された患者の5年全生存率(OS)は、有症状群に比べて無症状群で有意に高く(100% vs. 80.3%, p=0.040, 図g)、イマチニブ術後補助療法施行例を除いて解析した場合も同様であった(100% vs.76.8%, p=0.037, 図h)。
無症状例および有症状例を対象とした多変量解析の結果、再発の独立予測因子として、腫瘍径(ハザード比[HR]3.22, 95%信頼区間[CI]1.50~7.54, p=0.0022)、核分裂像数(HR5.68, 95%CI 2.65~13.58, p<0.0001)および有症状(HR2.67, 95%CI1.22~6.49, p=0.013)が同定された。

表 無症状群および有症状群における患者特性の比較
無症状群 (n=147)n(%) 有症状群(n=137)n(%) p
年齢:歳(範囲) 66(25~92) 66(18~91) 0.86
性別
男性 81(55.1) 58(42.3) 0.031
女性 66(44.9) 79(57.7)
腫瘍径中央値:cm(範囲) 3.5(1.1~25) 5.3(0.5~25) <0.0001
≦2.0 15(10.2) 10(7.3) <0.0001
2.1~5.0 103(70.1) 54(39.4)
5.1~10.0 20(13.6) 45(32.9)
>10.0 9(6.1) 28(20.4)
核分裂像数(/50HPF)
≦5 101(68.7) 73(53.3) 0.014
>5 36(24.5) 50(36.5)
不明 10(6.8) 14(10.2)
Modified NIH分類
高リスク 31(21.1) 56(40.9) 0.0002
超低~中リスク 107(72.8) 71(51.8)
不明 9(6.1) 10(7.3)
AFIP分類
高リスク 14(9.5) 33(24.1) 0.0004
リスクなし~中リスク 124(84.4) 90(65.7)
不明 9(6.1) 14(10.2)
イマチニブ術後補助療法
7(4.8) 9(6.8) 0.51
140(95.2) 128(93.4)
アプローチ法
開腹手術 85(57.8) 99(72.8) 0.0081
腹腔鏡手術 62(42.2) 37(27.2)
術式
胃局所切除 126(85.7) 83(61.0) <0.0001
胃亜全摘 8(5.4) 26(19.1)
胃全摘 5(3.4) 8(5.9)
拡大切除a 1(0.7) 8(5.9)
その他 0 4(2.9)
不明 7(4.8) 7(5.2)

HPF:高倍率視野、NIH:National Institutes of Health, AFIP:Armed Forces Institute of Pathology
a 胃切除+他臓器切除
二値変数の比較にはFisherの正確検定、連続変数の比較にはMann-Whitney U検定を用いた。

図 無症状群(青)および有症状群(黄)における無再発生存曲線(a-f)および全生存曲線(g,h)
図 無症状群(青)および有症状群(黄)における無再発生存曲線(a-f)および全生存曲線(g,h)

結論

無症状の胃GISTは、多くが胃がん検診にて発見されており、有症状のGIST患者に比べて、腫瘍径や核分裂像数が低値で、高リスク患者の占める割合が低く、低侵襲手術の割合が高かった。また、無症状の高リスク患者は、有症状の高リスク患者に比べて予後良好であり、多変量解析では、腫瘍径と核分裂像数に加えて、症状そのものが再発の独立予測因子であることが示された。
以上を踏まえると、日本の胃がん検診システムは、無症状の胃GISTを早期に発見することにより、低侵襲手術の施行や治療アウトカムの改善に貢献していると考えられる。

コメント

近畿GIST研究会「GIST登録事業」は本邦におけるGISTの治療実態を後方視的に調査し、治療法選択の現状および再発・予後に影響する因子を探索する目的で実施した多施設共同大規模疫学調査研究である。本論文は、このデータを用いて胃がん検診が胃GISTの治療アウトカムに及ぼす影響について検討した。全国40施設から737例の症例が登録され、データ欠損のないGIST症例672例うち胃GISTは482例(71.7%)で欧米の報告(50~60%)よりも高率であり、再発低リスク症例が多かった。胃がん検診で発見された無症状群は有症状群に比べて腫瘍径が小さく、核分裂数が少ない症例が多く、結果としてより腹腔鏡手術・胃局所切除術といった低侵襲手術の占める割合が高かった。また、早期発見により予後も良好であった。無症状例・有症状例を対象とした多変量解析では、既知の再発リスクである腫瘍径と核分裂像数に加えて症状の有無も独立した予後因子であり、症状があること自体が予後不良になる可能性がある。本邦の胃がん検診は、胃GISTの早期発見により良好な治療アウトカムに貢献していることが「GIST登録事業」のデータにより明らかになった。

引用文献

  • 1)Joensuu H, et al. Lancet Oncol. 2012; 13: 265-274
  • 2)Joensuu H. Hum Pathol. 2008; 39: 1411-1419
  • 3)Miettinen M, et al. Semin Diagn Pathol. 2006; 23: 70-83