文献紹介

超音波内視鏡下穿刺吸引術(EUS-FNA)で診断されたGISTの臨床経過

Clinical course of gastrointestinal stromal tumor diagnosed by endoscopic ultrasound-guided fine-needle aspiration
Sekine M, et al. Dig Endosc. 2015; 27: 44-52
富山大学医学部内科学第三講座 梶浦新也

背景・目的

GISTは最も高頻度にみられる消化管間葉系腫瘍であり、悪性度が低いものから転移をきたすものまで様々なものがある。GISTの悪性度診断は、通常、腫瘍径や核分裂像数に基づいて行われるが1,2)、腫瘍径の小さなGISTの臨床所見や経過に関しては十分なデータがなく、不明な点が多い3,4)
近年、消化管粘膜下腫瘍の診断法として超音波内視鏡下穿刺吸引術(EUS-FNA)が普及し、GISTの術前診断が可能となってきた5-8)。そこで本研究では、自施設のGIST患者のデータを用いて、GISTの診断におけるEUS-FNAの有用性を評価し、さらにEUS-FNAで診断されたGISTの臨床経過について検討した。

方法

自施設のデータベース(1996~2012年)を用いて、粘膜下腫瘍の診断目的でEUS-FNAが施行された198例を同定し、そのなかからEUS-FNA診断または切除病理組織診断により組織学的にGISTと診断された84例のデータを抽出した。これらの患者のうち、外科切除を受けた67例を対象とし、EUS-FNA診断と切除病理組織診断を比較することで、EUS-FNAの有用性を評価した。また、GISTの診断後1年以上追跡された27例を対象として、腫瘍径の経時変化を検討するとともに、腫瘍径別(20 mm未満または20 mm以上)に悪性を示唆する画像所見の有無やKi67指数について検討した。

結果

GISTの診断におけるEUS-FNAの有用性

外科切除例67例のうち、49例はEUS-FNA施行直後に切除術を受けており、残る18例は1年以上の経過観察を経て切除術を受けていた。腫瘍径は、20 mm未満が19例(28.4%)、20 mm以上が48例(71.6%)であった。
EUS-FNAによる検体採取率は、径20 mm未満群、径20 mm以上群ともに100%であり、免疫染色は径20 mm未満群の16例(84.2%)、径20 mm以上群の41例(85.4%)で実施されていた。EUS-FNAによる細胞診または組織診がGISTの診断基準に合致したのは47例(82.5%)であった。
GISTの診断におけるEUS-FNAの感度は80.6%、陽性的中率は100%であり、67例中13例はGISTの診断に至らなかった。径20 mm未満のGISTに対するEUS-FNAの感度および陽性的中率はそれぞれ82.9%および100%であった。

腫瘍径の経時変化

対象27例の診断時年齢中央値は66.0歳であり、23例(85.2%)はEUS-FNA、4例(14.8%)は切除標本によりGISTと診断されていた。追跡期間および追跡間隔の中央値はそれぞれ55ヵ月および8ヵ月であった。初回観察時の平均腫瘍径は17.9 mmであり、20 mm未満の患者が18例(66.7%)、20 mm以上の患者が9例(33.3%)であった。
27例中18例(66.7%)は、1年以上の経過観察を経て根治切除されており、残る9例(33.3%)は経過観察のみであった。追跡期間中(中央値66ヵ月)、腫瘍径は有意に増加し(p=0.007、A)、初回観察時の腫瘍径別に解析すると、20 mm以上群では有意差はみられなかったが(追跡期間中央値70ヵ月、p=0.16、B)、20 mm未満群では有意な増加を認めた(追跡期間中央値62ヵ月、p=0.015、C)。これらのなかには、2年間で18 mmから84 mmまで急速に増大し、肝転移をきたした胃GISTもあった9)
一般線形解析を用いて、初回観察時の腫瘍径別に腫瘍増大と追跡期間の関係を検討した結果、20 mm以上群および20 mm未満群のいずれにおいても有意な関係は認められなかった(それぞれβ係数=0.044, p=0.389およびβ係数=0.037、p=0.436)。

図 追跡期間中の腫瘍径の変化
図 追跡期間中の腫瘍径の変化
データは平均値±標準偏差。外科切除例については、切除時を最終観察とみなした。

画像所見およびKi67に関する検討

最終観察時の腫瘍径は、20 mm未満14例、20 mm以上13例であった。これらの患者群で、悪性を示唆するようなEUS所見や内視鏡所見(辺縁不整、石灰化、嚢胞変性、境界不明瞭、不均一な内部エコー、潰瘍)の有無を比較したところ、いずれの所見に関しても有意な群間差は認められなかった。また、κ係数を用いて2名の観察者間の画像所見の一致度を検討した結果、中程度の一致率(κ=0.54~0.55)と判定された。
EUS-FNA検体によるKi67の測定は27例中23例(85.1%)で可能であった。最終観察時の腫瘍径が20 mm未満の患者群では、14例中12例(85.7%)でKi67が測定可能であり、Ki67≧5%の腫瘍は認められなかった。一方、径20 mm以上の患者群では、13例中11例(84.6%)でKi67が測定可能であり、2例(18.2%)がKi67≧5%であった。

結論

本研究から、GISTの診断におけるEUS-FNAの感度および陽性的中率は、20 mm未満の小さなGISTであっても良好であり、EUS-FNAは、腫瘍の大きさによらず、信頼性の高い診断法であることが示唆された。また、20 mm未満のGISTは、経過観察中に有意に増大することが示された。EUS-FNA検体を用いたKi67測定は、80%以上の症例で可能であったことから、他のGIST関連バイオマーカーの測定においてもEUS-FNA検体が使用できる可能性があり、今後の検討が望まれる。

コメント

GISTと診断するためには、組織学的な検査が必須である。組織採取法としては、内視鏡的ボーリング生検や切開生検に加えて、近年はEUS-FNAが普及してきているが、20 mm未満では診断率が低いという報告もある。本研究では、GISTに対するEUS-FNAによる診断能を後ろ向きに検討し、20 mm未満でも十分な感度と陽性的中率があり、有用性が示唆された。
また、GISTの経時的な大きさの変化については、いまだにほとんど報告がなく不明なことが多い。そこで、本研究では、1年以上経過観察された症例についても検討し、小さなGIST(平均17.9 mm)が経過観察中に有意に増大することが示された。特に20 mm未満の症例群は18例中5例が20 mm以上に明らかに増大し、その中の1例は急速に増大し、肝転移を認めていた。改めて腫瘍が小さくても、十分な注意が必要な症例が一部、含まれることを認識させられる。
一方で、20 mm以上の症例群については、経過観察中に有意な増大がなかったことも興味深い。20 mm以上のGISTの中にも、良性の経過をたどり手術が不要な症例が含まれていると思われるが、これらと悪性の経過をたどる症例とを正確に鑑別するのは現状では困難である。将来的には腫瘍組織のバイオマーカーを用いた長期的予後評価が、この鑑別の一助となるかもしれない。

引用文献

  • 1)Miettinen M, et al. Arch Pathol Lab Med. 2006; 130: 1466-1478
  • 2)Fletcher CDM, et al. Hum Pathol. 2002; 33: 459-465
  • 3)Gerrish ST, et al. Ochsner J. 2008; 8: 197-204
  • 4)Nishida T, et al. Dig Endosc. 2013; 25: 479-489
  • 5)Suzuki T, et al. ISRN Gastroenterol. 2011; 2011:619128
  • 6)Maheshwari V, et al. Diagn Cytopathol. 2012; 40: 834-838
  • 7)Ito H, et al. Gastroenterol Res Pract. 2012; 2012:139083
  • 8)Mekky MA, et al. Gastrointest Endosc. 2010; 71: 913-919
  • 9)Sawai A, et al. Dig Endosc. 2006; 18: 40-44