文献紹介

消化管間質腫瘍(GIST)200症例の再発様式と、生命予後の予測因子

Two Hundred Gastrointestinal Stromal Tumors. Recurrence Patterns and Prognostic Factors for Survival.
DeMatteo RP et al. Ann Surg 2000; 231: 51-58
埼玉医科大学国際医療センター 包括的がんセンター 消化器病センター 上部消化器外科 大谷吉秀

従来、消化管間質腫瘍GIST)の予後に関する報告は断片的なものが多かった。すなわち、検討症例数が少ない報告、良性腫瘍を含むもの、初発・再発を区別していない検討などが散見される。一方、本論文は、200例のGIST症例を16年間にわたって追跡し、再発のパターンを検討するとともに、生命予後と相関する因子の検索を試みた価値の高い報告である。

対象と方法

1982年7月から98年2月までにMemorial Sloan-Kettering Cancer Center(米国・ニューヨーク)にて治療を受けたGIST患者さん200例を対象に、以下の各因子を調査・記録のうえ、16年間にわたり予後を追跡した。

(1) 臨床的因子

年齢、性別、人種、初診時の腫瘍ステージ(初発/再発/転移)、癌の既往歴。原発巣の切除後に、同部位へ腫瘍病変が認められた場合を「再発」とし、原発巣以外にひとつでも腫瘍病変が認められた場合を「転移」に含めた。

(2) 病理学的因子

腫瘍の発生部位、腫瘍径、浸潤性の有無。腫瘍径は、その最大径によって(1)5cm以下、(2)5~10cm、(3)10cm超の3グループに分類した。浸潤性に関しては摘出標本を顕微鏡的に観察し、辺縁組織に対する腫瘍細胞浸潤の有無を確認した。

(3) 腫瘍摘出度

原発巣が完全に切除できたものを「完全切除例」とした。一方、開腹時に切除不能であったものと、切除後、肉眼的に原発巣の残存腫瘍が認められたものを「不完全切除例」とした。

(4) 患者背景

患者さんの男女比は56対44であった。年齢は16~94歳の範囲で単峰性に分布し、ピークは男性50歳代、女性60歳代であった。人種背景は白人83%、黒人8%、ヒスパニック1%、その他4%、不明4%であった。がんの既往は10例(5%)に認められ、内訳は乳がん4例、前立腺がん2例、皮膚がん、子宮がん、肺がん、腎がんが各1例あった。腫瘍の原発部位は、胃が39%、小腸32%、直腸10%、大腸5%、部位未特定の消化管5%、消化管以外が9%であった。70%以上の患者で腫瘍径が5cmを超えていた。初診時の腫瘍ステージは、初発93例(46%)、転移94例(47%)、再発13例(7%)であった。転移の患者さんにおける転移部位は、肝が65%、腹腔が21%、リンパ節、骨が各6%、肺が2%であった。各分類における原発巣完全切除例の割合を表1に示す。

表1 患者背景
表1 患者背景
表1 患者背景
その他*:腹腔内9例、腸間膜4例、大網2例、食道2例、横隔膜1例
(DeMatteo RP et al. Ann Surg 2000; 231: 51-58より一部改変)

結果

(1) 生命予後

200例を追跡(1~175ヵ月、中央値14ヵ月)した結果、1年生存率は69%、3年生存率は44%、5年生存率は35%であった。そのうち、原発巣完全切除群(n=80)の1年生存率は88%、3年生存率は65%、5年生存率は54%であった(図1a)。完全切除群では、不完全切除群(n=120)に比して長期の生存が認められた(中央値:66ヵ月 vs 22ヵ月)。また、完全切除群(n=80)の予後を腫瘍径別にみたところ、腫瘍径が大きいほど予後は不良であった(図1b)。初診時の腫瘍ステージ別にみた腫瘍完全切除の割合を表2に示す。初診時の腫瘍ステージ別(初発/転移/再発)にみた生存期間中央値は、初発群が60ヵ月、転移群が19ヵ月、再発群が12ヵ月であった(表3)。
全例の単変量解析によって生命予後との有意な相関が認められた因子は、初診時の腫瘍ステージ、腫瘍径、腫瘍摘出度の3つであった。多変量解析では、男性であること、5cmを超える腫瘍径、不完全な腫瘍切除が生命予後と有意に相関した(表4)。とくに腫瘍径が10cmを超える場合の相対危険度は4.4(95%CI2.0-9.8)であった。

図1  生存率
a) 全症例と完全切除群における生存率
a) 全症例と完全切除群における生存率
b) 完全切除群(n=80)における腫瘍径別の生存率
b) 完全切除群(n=80)における腫瘍径別の生存率
表2  初診時の腫瘍ステージ別にみた腫瘍完全切除の割合
表2 初診時の腫瘍ステージ別にみた腫瘍完全切除の割合
(DeMatteo RP et al. Ann Surg 2000; 231: 51-58より 一部改変)
表3  初診時の腫瘍ステージ別にみた生存期間
表3 初診時の腫瘍ステージ別にみた生存期間
(DeMatteo RP et al. Ann Surg 2000; 231: 51-58より 一部改変)
表4 生命予後と各因子との関連
表4 生命予後と各因子との関連

CI:95%信頼区間、NA:未検討。

(DeMatteo RP et al. Ann Surg 2000; 231: 51-58)

(2) 原発巣完全切除群における再発

完全切除群(n=80)の追跡結果(1~175ヵ月、中央値24ヵ月)では、再発ないしは転移が32例(40%)に認められた。解析可能なデータが得られた27例の再発・転移状況をみると、原発部位への再発が9例、他部位への転移が13例、再発・転移をともに生じた患者さんが5例であった。転移部位の多くは腹腔内、とくに肝臓であった。なお、腫瘍径が10cmを超える患者さんで再発・転移が早期に生じる傾向を認めたが、それ以外に再発・転移と相関する因子はなかった。
完全切除後に再発・転移を認めた例には、再び手術が試みられていた。解析可能な27例を対象に、2度目の手術における腫瘍摘出度別に生存期間中央値をみた結果を表5に示す。原発部位への再発を認めた群で、完全切除が得られた場合の生存期間中央値は54ヵ月、不完全切除の場合は5ヵ月であった。他部位への転移を認めた群では、完全切除の場合が16ヵ月、不完全切除の場合が10ヵ月であった。再発・転移ともに生じた群では不完全な切除しか得られておらず、生存期間中央値は5ヵ月であった。

表5 原発巣完全切除後の再発・転移例数と生存期間
表5 原発巣完全切除後の再発・転移例数と生存期間

(DeMatteo RP et al. Ann Surg 2000; 231: 51-58)

コメント

本論文から示されたGIST患者さんの生命予後は、患者背景によって大きく異なっていた。ひとつには、腫瘍径が生存期間を規定する重要な因子であり、腫瘍径の小さいものほど生存率が高く、腫瘍切除後の予後に優れていた。また、初診時の腫瘍ステージも生存期間(中央値)に対して大きく影響しており、転移の患者さんの19ヵ月、再発の患者さんの12ヵ月に比べ、初発の患者さんでは60ヵ月と比較的長いことが示された。
現在、GISTに対する治療の第一選択肢は手術であり、初発例で腫瘍切除が完全になされた患者さんでは、他に比べ良好な予後が示唆される。一方、本論文でも明らかにされたとおり、再発例への手術は初発例と比べて相対的に効果が弱く、手術療法単独の限界を考えさせられる。しかし、GISTに対しては新しい分子標的治療薬であるメシル酸イマチニブが開発され、平成15年7月から保険適応になった。欧米でのphase II試験を始めとして多くのエビデンスが蓄積されつつあり、今後の研究動向に注目したい。