文献紹介
軟部組織肉腫の患者さんにおけるイマチニブの有効性と安全性の評価-EORTC骨・軟部肉腫研究グループによる第II相試験-
Imatinib mesylate (STI-571 Glivec®, GleevecTM) is an active agent for gastrointestinal stromal tumours, but does not yield responses in other soft-tissue
sarcomas that are unselected for a molecular target:
Results from an EORTC Soft Tissue and Bone Sarcoma Group phase II study.
Verweij J et al. Eur J Cancer 2003; 39: 2006-2011
国立がん研究センター中央病院 消化器内科 山田康秀・加藤 健
成人の悪性腫瘍の1%を占める軟部組織肉腫(STS)は、間葉系細胞に由来する悪性腫瘍の総称であり、消化管間質腫瘍(GIST)もそのサブタイプのひとつである。通常、STS治療における第一選択は外科的切除であるが、腫瘍径や腫瘍の部位などから、手術不応の場合には放射線単独療法が行われる。しかし、これらは局所的な病勢コントロールに優れているとはいえ、病巣が転移した場合のコントロールに課題を残していた1)。STSに対する全身化学療法の効果に関しては、概して不良であり2)、最も有効とされるドキソルビシンにおいても20~25%の有効率に過ぎず3)、特にGISTには、既存の化学療法に極めて高い抵抗性を示す。
一方で、近年登場したメシル酸イマチニブ(グリベック)は、GISTに対して優れた効果を発揮することが明らかとなっている4)。当初、イマチニブは慢性骨髄性白血病のBcr-Ablチロシンキナーゼを選択的に阻害する薬剤として見出されたが、その後の研究により、GISTにおけるKITチロシンキナーゼや血小板由来増殖因子受容体(PDGF-R)チロシンキナーゼに対する阻害作用も有することが示された。また、PDGF-RはSTSにおいても一部発現が認められていることから、GIST以外のSTSに対してもイマチニブが反応する可能性が考えられた。
以上のような背景から、本論文は、EORTC(The European Organization for Research and Treatment of Cancer)の骨・軟部肉腫研究グループがイマチニブの第II相試験実施にあたり、GISTに対する至適用量の設定と安全性評価という本来の目的に加え、他のSTSに対する効果についても検討し、報告したものである。
対象と方法
直径2cm以上(スパイラルCT所見の場合は1cm以上)の腫瘍を最低1個以上有し、6週間以内に腫瘍の増大が認められ、組織学的に進行かつ/または転移性、切除不能、放射線療法の無効な15歳以上のSTSの患者さんを対象とした。GISTについてはKIT陽性とし、GIST以外のSTS(非GIST)についてはKIT陽性の有無を問わないものとした。
イマチニブは400mg 1日2回を投与し、1)症状の進行がみられるまで、または、2)副作用によって投与不能になるまで継続した。腫瘍の評価については、治療開始後6ヵ月間は8週毎に、6ヵ月以降は3ヵ月毎に行い、GIST群と非GIST群におけるイマチニブの治療効果を比較した。また、有害事象の発現頻度と推移を検討した。
結果
(1) 患者背景
13施設より、GIST 27例、非GIST 24例(脂肪肉腫6例、平滑筋肉腫4例、線維肉腫3例、滑膜肉腫3例、未分類3例、複数種の肉腫5例)の計51例が登録された。年齢は21~75歳(中央値53歳)、男女比は67:33、Performance Status(PS)は0~1(中央値1)であり、88%に手術、24%に放射線療法、71%に化学療法による前治療歴があった。平均追跡期間は、GIST群13ヵ月、非GIST群は2ヵ月であった。
(2) 治療効果
GIST群の治療効果は、完全奏効(CR)4%(1/27)、部分奏効(PR)67%(18/27)、安定(SD)19%(5/27)、進行(PD)11%(3/27)であり、1年無増悪生存率(Progression Free Survival:PFS)は73%であった。一方、非GIST群ではCRおよびPRの患者さんはなく、29%がSD、その他はPDであった。非GIST群のPFSの中央値はわずか58日であった(図1)。

(3) 有害事象
主な有害事象は貧血(92%)、浮腫(特に眼窩周囲の浮腫:84%)、皮疹(69%)、疲労(76%)、悪心(57%)、顆粒球減少(47%)、下痢(47%)などであった。ほとんどの有害事象は軽~中等度であり(表)、投与後8週までに発現する傾向にあった。また、解析対象となった例数は少ないものの、イマチニブの投与量を800mg/日から600mg/日または400mg/日へ減量することと有害事象発現の減少は無関係と考えられた(詳細なデータは示されず不明)。
浮腫、皮疹、悪心の症状については、投与を中止しなくとも、大多数の症例で自然に改善される傾向にあり(図2)、副作用が理由で投与を中止した症例はなかった。

Criteria(NCI-CTC)Ver2.0に準じる。

* gradingはNational Cancer Institute-Common
Toxicity Criteria(NCI-CTC)Ver2.0に準じる。
** 減量の実際が明らかにされていないため、投与量は不明である。
コメント
本試験に先立って行われたEORTCの第 I 相試験4)では、有効かつ安全に使用できるイマチニブの最大用量は400mg
1日2回投与とされた。本検討でも欧米人において、この用量設定でGIST患者さんの89%(24/27)で病勢コントロールが得られ、その有効性が再確認された。また、このような高用量(開始用量)の設定において、著者らは浮腫、皮疹、悪心は大半の症例で発現したものの、それらは治療継続とともに軽症化したと報告しており、イマチニブの高い安全性が確認された。
しかしながら、日本で行われた第II相試験ではgrade 3または4の好中球減少が400mg/日投与群で11%、600mg/日投与群で28%にみられており5)、欧米人における頻度(800mg/日投与の症例でgrade3以上の顆粒球減少が6%)に比べて高かった。これには、日本人と欧米人における体格差6)、薬物代謝酵素活性の個人差や遺伝子多型などによる血液毒性の程度および頻度の違いが関与している可能性がある。
GISTに対するイマチニブの国内常用量(承認用量)は400mg/日であるが、イマチニブ耐性にはクリアランスの上昇が関与している可能性も指摘されており、耐性例において、600mg/日や800mg/日への増量が有効であった症例も報告されている。このような症例では血中濃度の経時的なモニタリングが有用であると思われる。また、クリアランス上昇による耐性の機序や頻度も明らかにする必要がある。
本邦の治験において、600mg/日投与群12名に対し、薬物動態を検討したところ、2名の患者さんで他の患者さんに比べて著しく高い血中濃度(AUC)がみられた(図3:有害事象により投与を中止したため、29日目のデータは欠損)。海外のGIST患者さんに対する臨床試験でも同様の症例が報告されている(図3)5)。その背景には、治療前の体重、ヘモグロビン値、血清アルブミン値6)、CYP3A4、CYP2D6の個体差、遺伝子多型以外に、他のチトクロームP450や因子が関与している可能性もあり、さらなる検討が必要である。また、投与量の減量(400mg/日以下)と有害事象の関連についても詳細なデータを示し、相関の有無を明らかにする必要がある。
GISTにおいては、イマチニブ投与によりCR、PRあるいはSDが得られたとしたとしても、休薬すれば再増悪の可能性が高まることから、休薬せずに治療を続けることが極めて重要である7,8)。その意味で、極端に高い血中濃度を示すような患者さんでは、適正な減量により、投与を継続していくことが可能になると考えられる。
なお、本検討ではGIST以外のSTS(24例)に対するイマチニブの効果は認められなかった。その理由として、本試験ではSTSにおいて遺伝子変異(PDGF-R)の特定を行っていないものの、PDGF-Rの変異が関与しないSTSが大部分を占めていた可能性を著者らは推測している。

[引用文献]
- 1) O’Sullivan B et al. Semin Radiat Oncol 1999; 9: 328-348
- 2) Santoro A et al. J Clin Oncol 1995; 13: 1537-1545
- 3) Verweij et al. Crit Rev Oncol Hematol 1995; 20: 193-201
- 4) Van Oosterom AT et al. Lancet 2001; 358: 1421-1423
- 5) Doi T et al. J Clin Oncol 2004; 22(Suppl): 4078
- 6) Judson I et al. Cancer Chemother Pharmacol 2005; 55: 379-386
- 7) Verweij J et al. Lancet 2004; 364: 1127-1134
- 8) Blay JY et al. J Clin Oncol