文献紹介

GIST切除後の再発リスク:住民コホート研究のプール解析

Risk of recurrence of gastrointestinal stromal tumour after surgery: an analysis of pooled population-based cohorts
Joensuu H, et al.
Lancet Oncol. 2012; 13: 265-274
国立がん研究センター中央病院 西田俊朗

背景・目的

切除可能GISTにおいて、術後の再発リスクの予測は、アジュバント療法の適応を判断するためにきわめて重要である。GISTには外科切除例を対象とした2~3のリスク分類がある。腫瘍径、核分裂像数と原発部位は再発のリスク因子である。腫瘍破裂を伴ったGISTは高率に再発するが、腫瘍破裂が単独の再発予後因子かどうかには異論がある。
GISTの疾患概念は近年確立されたばかりであり、長期追跡された大規模な任意抽出のデータベースがないため、各リスク分類の精度やカットオフ値の妥当性などは十分検討されていない。そこで本研究では、これまでに報告された切除可能GISTの住民コホート研究をもとに大規模なデータベースを構築し、無再発生存率(RFS)の主要な予測因子を同定するとともに、既に報告されているリスク分類の精度を比較した。さらに、腫瘍径や核分裂像数の非線形性を加味した新たな再発リスク予測マップを開発した。

対象および方法

本研究は、2000年1月~2010年1月の間に報告された切除可能GISTの住民コホート研究10件5~13)に基づく観察的コホート研究である。対象は、組織学的に診断された切除可能GISTで、肉眼的完全切除を受け、アジュバントやネオアジュバント療法を受けていないGIST患者2,560例であった(住民コホート)。また、これとは別にイタリアの35施設において1980~2000年に診断されたKIT陽性の切除可能GIST患者920例のデータを入手し、検証コホートとした14)
RFSの独立予測因子はCox比例ハザードモデルを用いて同定した。再発リスクはNIH分類、modified NIH分類およびAFIP分類を用いて評価した。非線形モデルはCox変法を用い作成した。リスク分類の精度比較はROC(receiver operating characteristics)解析により行った。

結果

住民コホート2,560例の診断時年齢中央値は63歳(9~96歳)、男性の比率は50.9%、主な原発部位は胃(56.4%)であり、腫瘍径中央値は5.5 cm(0.1~45.0 cm)、核分裂像数中央値は3(0~276)/50 HPF、腫瘍破裂は1,198例中71例(5.9%)に認められた。KITまたはPDGFRA遺伝子変異は、遺伝子情報のある、1,072例中、それぞれ787例(73.4%)および87例(8.1%)であった。検証コホートは、住民コホートに比べて診断時年齢が高く(中央値66歳[12~95歳]; p<0.0001)、男性の割合が多かったが(56.5%; p=0.003)、腫瘍径や原発部位、核分裂像数に差はなかった。住民コホートおよび検証コホートにおける追跡期間中央値は、それぞれ4.0年および9.4年であった。
住民コホートにおける推定全生存期間中央値は12.4年(95%信頼区間[CI]10.8~14.0年)であった。GISTの再発は術後5年以内に多く、10年後以降はほとんど認められなかった。5年、10年および15年後の推定RFSはそれぞれ70.5%、62.9%および59.9%であった。
住民コホートのデータを用いて単変量解析を行ったところ、腫瘍径と核分裂像数はRFSと強く関連していた。原発部位別にRFSを比較すると、小腸GISTに比較し胃GISTのRFSは良好であり、食道および大腸GISTは小腸GISTと同等、消化管外GISTは最も不良であった。また女性は男性よりもRFSが若干良好であった。多変量解析の結果、腫瘍径、原発部位、核分裂像数に加えて、腫瘍破裂および性別がRFSの独立予測因子として同定された。
住民コホートおよび検証コホートにおいて、NIH分類、modified NIH分類およびAFIP分類はいずれもRFSと強く関連していた(1)。
腫瘍径および核分裂像数と再発リスクの関係は非線形的であった。そこで、これらの変数の連続性と非線形性を反映させ、さらに原発部位と腫瘍破裂の有無も加味した新たな再発リスク予測マップを非線形モデルにより作成した(2)。ROC解析の結果、新たな予後予測チャート(ROC曲線下面積0.88; 95%CI 0.86~0.90)は、NIH分類(0.79; 0.76~0.81)、modified NIH分類(0.78; 0.75~0.80)およびAFIP分類(0.82; 0.80~0.85)よりも10年再発リスクの予測に優れていた(いずれもp<0.0001)。この結果は、検証コホート(腫瘍破裂のデータなし)においても再現され、5年または15年再発リスクをエンドポイントとした場合にも再現された。

図1 NIH分類(A, B)、modified NIH分類(C, D)およびAFIP分類(E, F)で層別化した無再発生存率
図1 NIH分類(A, B)、modified NIH分類(C, D)およびAFIP分類(E, F)で層別化した無再発生存率
図2 術後の再発リスク予測マップ
図2 術後の再発リスク予測マップ腫瘍破裂の有無が不明な場合はグラフA~Cを、腫瘍破裂がない場合はグラフD~Fを、腫瘍破裂がある場合はグラフG~Iを使用する。赤い領域は高リスク、青い領域は低リスク、白い領域はデータがないことを示す。%は術後10年以内の再発リスクを示す。例えばグラフDにおいて、腫瘍径10 cm、核分裂像数5/50 HPFで腫瘍破裂のない胃GISTの10年再発リスクは20~40%である。同じ腫瘍で核分裂像数が10/50HPFであった場合、10年再発リスクは40~60%となる

考察

本研究から、切除可能GISTの多くは手術のみで治癒し、イマチニブアジュバント療法の便益は小さいことが示された。NIH分類、modified NIH分類およびAFIP分類は、いずれも術後の再発リスクを正確に予測できるが、なかでもmodified NIH分類は単一の高リスク群の同定に優れており、アジュバント療法の適応選択に有用と考えられる。さらに本研究で作成された新たな再発リスク予測マップは、既存の3つのリスク分類よりも精度が高く、個々の患者の予後予測に役立つと考えられる。

コメント

GIST は良悪の鑑別が難しい場合があり、小さいものでもpotentially malignant tumorと考えられている。そのGISTの分類では、術後の再発や生命予後を念頭としたリスク分類が用いられている。GISTのリスク分類には、最初に報告されたNIH分類1)があり、その後AFIP分類4)やその中間的なmodified NIH(Joensuu)分類3)、二つのそれぞれRFSとOSを予測するNomogram14,15)、そしてAJCCのステージ分類等が報告されている。これらはいずれも同じような予後因子(腫瘍径、分裂像数、発生部位)を用いているが、どの分類が術後高再発群をうまく抽出できるかを検討したものはなかった。本研究で、NIH分類、AFIP分類、modified NIH(Joensuu)分類で大きな差はないものの実用的にはmodified NIH(Joensuu)分類がアジュバント治療候補を抽出する上で有用であることが示された。
また、本論文では、再発リスクと重要な予後因子である腫瘍径と分裂像数との関係は、非線形で連続的に変化していることが示された。さらに、個々別々により正確な予後予測をするには、この論文で提案されたcontour maps(あるいはprognostic heat maps)を用いると良いと考える。

引用文献

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  • 2) Rutkowski P, et al: Eur J Surg Oncol. 2011; 37: 890-896.
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