文献紹介
イマチニブおよびスニチニブ耐性の進行GISTに対するレゴラフェニブの有効性と安全性:国際共同多施設無作為化プラセボ対照第III相試験(GRID試験)
Efficacy and safety of regorafenib for advanced gastrointestinal stromal tumours after failure of imatinib and sunitinib (GRID): an international, multicentre, randomised, placebo-controlled, phase 3 trial
Demetri GD, et al. Lancet. 2013; 381: 295-302
国立がん研究センター東病院 消化管内科 土井 俊彦
背景
転移性/切除不能GISTの薬物療法における一次治療はイマチニブであり、イマチニブ耐性例に対しては二次治療としてスニチニブが使用可能である。しかし、スニチニブ投与例においてもイマチニブ同様、耐性の出現が問題とされており、イマチニブ・スニチニブ耐性GISTに対する有効な治療法は確立されていない。
レゴラフェニブは、腫瘍血管新生や腫瘍形成、腫瘍微小環境に関わる複数のキナーゼを標的とする新規の経口マルチキナーゼ阻害薬であり、イマチニブ・スニチニブ耐性GISTを対象とした第II相試験において良好な成績が示されている1)。そこで、イマチニブ・スニチニブに耐性を示す転移性/切除不能GISTを対象に、レゴラフェニブの有効性と安全性を評価する多施設共同無作為化プラセボ対照第III相臨床試験GRIDを実施した。
対象・方法
試験には日本を含む17ヵ国57施設が参加した。対象はイマチニブおよびスニチニブが無効となった転移性/切除不能GISTであり、これらの患者を二重盲検下で、2:1の割合でレゴラフェニブ群またはプラセボ群に無作為割付した。レゴラフェニブ(160 mg/日)およびプラセボは1日1回3週間経口投与し、1週間休薬するサイクルを繰り返した。両群ともにbest supportive care(BSC)を併用した。進行した場合、プラセボ群の患者はレゴラフェニブへ切り替え、オープンラベルで治療することが可能であった。また、容認できない副作用が発現した場合は、予め定めた基準に従って減量・休薬することが可能であった。主要評価項目は、中央評価による無増悪生存期間(PFS)であり、PFSイベントが144件発生した時点で最終解析を行った。副次評価項目は全生存率(OS)、客観的奏効率、病勢コントロール率、安全性などであった。有効性はintention to treat(ITT)解析により評価した。
結果
2011年1~8月の間に240例がスクリーニングを受け、199例が無作為化されてレゴラフェニブ群(133例)またはプラセボ群(66例)に割り付けられた。データカットオフ(2012年1月26日)時点で、投与中止例はレゴラフェニブ群38例(29%)、プラセボ群7例(11%)であり、主な中止理由は病勢進行であった。また、プラセボ群の56例(85%)がレゴラフェニブにクロスオーバーしていた。中央評価によるPFS中央値は、プラセボ群で0.9ヵ月であるのに対し、レゴラフェニブ群では4.8ヵ月と有意に延長された(ハザード比[HR]0.27、95%信頼区間[CI]0.19~0.39、p<0.0001)(図A)。両群のOSに有意差はなかった(死亡率;レゴラフェニブ群22% vs. プラセボ群26%、HR 0.77、95%CI 0.42~1.41、p=0.199、図B)。サブグループ解析の結果、レゴラフェニブのPFS延長効果は、治療ライン(三次治療または四次治療以上)やKIT変異型(エクソン9変異 または11変異)によらず認められた。奏効率はレゴラフェニブ群4.5%、プラセボ群1.5%であった。病勢コントロール率はプラセボ群で9.1%であるのに対し、レゴラフェニブ群では52.6%と有意に高かった(95%CI-54.72~-32.49、p<0.0001)。
薬剤関連有害事象の発現率は、レゴラフェニブ群98%(130例)、プラセボ群68%(45例)であり、最も頻度の高いものは手足症候群であった(表)。グレード3以上の薬剤関連有害事象はレゴラフェニブ群の61%(81例)、プラセボ群の14%(9例)に発現した。レゴラフェニブ群におけるグレード3以上の主な薬剤関連有害事象は、高血圧(31例、23%)、手足症候群(26例、20%)、下痢(7例、5%)であった。

レゴラフェニブ(n=132*) | プラセボ(n=66) | |||||
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全グレード | グレード3 | グレード4 | 全グレード | グレード3 | グレード4 | |
全事象 | 130(98%) | 77(58%) | 2(2%) | 45(68%) | 5(8%) | 1(2%) |
手足症候群 | 74(56%) | 26(20%) | 0 | 9(14%) | 0 | 0 |
高血圧 | 64(49%) | 30(23%) | 1(1%) | 11(17%) | 2(3%) | 0 |
下痢 | 53(40%) | 7(5%) | 0 | 3(5%) | 0 | 0 |
疲労 | 51(39%) | 3(2%) | 0 | 18(27%) | 0 | 0 |
口内炎 | 50(38%) | 2(2%) | 0 | 5(8%) | 1(2%) | 0 |
脱毛 | 31(24%) | 2(2%) | 0 | 1(2%) | 0 | 0 |
嗄声 | 29(22%) | 0 | 0 | 3(5%) | 0 | 0 |
食欲不振 | 27(21%) | 0 | 0 | 5(8%) | 0 | 0 |
斑状丘疹状皮疹 | 24(18%) | 3(2%) | 0 | 2(3%) | 0 | 0 |
悪心 | 21(16%) | 1(1%) | 0 | 6 (9%) | 1(2%) | 0 |
便秘 | 20(15%) | 1(1%) | 0 | 4(6%) | 0 | 0 |
筋肉痛 | 18(14%) | 1(1%) | 0 | 6(9%) | 0 | 0 |
音声変調 | 14(11%) | 0 | 0 | 2(3%) | 0 | 0 |
数値は症例数(%)。*治験薬が投与されなかった1例を除く
考察
イマチニブ・スニチニブ耐性GISTにおいて、レゴラフェニブはプラセボに比べてPFSを有意に延長した。レゴラフェニブ群の病勢コントロール率はプラセボ群を有意に上回っており、優れた腫瘍コントロールが示された。OSに関しては有意な群間差を認めなかったが、これは、プラセボ群の85%が進行後、レゴラフェニブへ切り替えたことが影響していると考えられる。レゴラフェニブの安全性および忍容性は概ね良好であった。主な副作用として、高血圧、手足症候群、下痢が報告されたが、その多くは適切な治療とレゴラフェニブの減量・休薬により管理可能であった。今後、レゴラフェニブの腫瘍コントロールの機序を解明するとともに、本剤の効果が期待できる遺伝子変異型を同定することが望まれる。
コメント
GISTは10万人あたりに1~2人と、極めて希な悪性腫瘍である。切除不能進行GISTではイマチニブやスニチニブといった分子標的薬の登場により、切除不能・再発GISTの治療成績は大きく改善した。その2剤に耐性となったGISTに対する薬剤は、有効性が証明されたものはない。 レゴラフェニブは、スニチニブと同様に、主に血管新生に関わる標的分子、血管内皮成長因子受容体(VEGFR)、血管内皮細胞に特異的に発現するTIE-2受容体、間質組織に発現する血小板由来成長因子受容体(PDGFR-β)や、発癌に関与するRAF、RET、c-KITといった受容体型チロシンキナーゼなどを標的とする経口マルチキナーゼ阻害剤である。マルチターゲットキナーゼ阻害剤は、幅広い薬効を有するものの毒性が強く、限られた癌腫に対しての有効性しか証明されていない。標的分子が多岐にわたるため、毒性も、皮膚毒性、消化管毒性、血液毒性、循環器毒性など多岐にわたる。特に、薬剤特異的な副作用である手足症候群は、個人間差も大きく臨床上の対応が難しい。本試験は、2011年1月から2011年7月まで、転移性/または切除不能なGISTで、イマチニブとスニチニブの投与を受けたが病勢進行が見られた患者199人を登録した。PFS中央値はレゴラフェニブ群4.8ヵ月、プラセボ群0.9ヵ月 (HR 0.27、 p<0.0001)と極めて有効な結果であり、早期の治験終了となっている。盲検であるがPD確認後は実薬が投与可能であるため、OSは近似し、差が出ない結果となっている。レゴラフェニブは、大腸癌でも同様の投与法でグローバル試験が展開され、有効性が証明されている。日本においても、海外承認後に遅れはとっているが、1年以内の承認が得られそうである注)。
注)会員ページ掲載時。2013年8月に「がん化学療法後に増悪したGIST」に対し国内でも承認されました。
引用文献
- 1) George S, et al. J Clin Oncol. 2012; 30: 2401-2407