文献紹介
切除可能GISTに対する1年間および3年間のイマチニブ術後補助療法の比較: 無作為化比較試験SSGXVIII/AIO
One vs three years of adjuvant imatinib for operable gastrointestinal stromal tumor: A randomized trial
Joensuu H, et al. JAMA. 2012; 307: 1265-1272
大阪大学大学院 消化器外科 黒川 幸典
背景・目的
初発GISTに対する治療の原則は外科的切除であるが、再発リスクの高い症例は、イマチニブによる術後補助療法が考慮される。初発GIST完全切除例を対象にイマチニブ術後補助療法の有効性を検討したACOSOG Z9001試験では、術後12ヵ月間のイマチニブ投与により、プラセボに比して無再発生存率(RFS)の有意な改善が認められた1)。しかし、同試験では全生存率(OS)の改善効果は明らかにされていない。また、イマチニブ術後補助療法中断後、早期の再発が多かったことから、より長期間のイマチニブ投与が必要な可能性が示唆された。そこで本研究では、再発の高リスクのGIST切除例を対象として、イマチニブ術後補助療法を1年間または3年間施行し、RFSおよびOSに対する影響を比較検討した。
対象および方法
本研究はオープンラベル・多施設共同・無作為化第III相試験である。対象は、組織学的にKIT陽性GISTと診断され、再発の高リスクの患者であった。再発リスクの評価にはmodified NIHリスク分類を用い2,3)、①腫瘍径10 cm超、②分裂像数10/50HPF以上、③腫瘍径5 cm超かつ分裂像数5/50 HPF以上、④術前または術中の腫瘍破裂、のいずれかを満たす症例を高リスクとみなした。被験者を術後1~11週間の間にイマチニブ(400 mg/日)12ヵ月投与群または36ヵ月投与群に1:1で無作為割付し、治療を開始した。主要評価項目はRFSであり、副次的評価項目はOSおよび安全性であった。腫瘍組織は、登録後、中央病理判定に供され、分裂像数の計測ならびにKIT/PDGFRA遺伝子の変異解析が行われた。
結果
1)患者背景
2004年2月~2008年9月の間にフィンランド、ドイツ、ノルウェーおよびスウェーデンの24施設から400例が登録され、12ヵ月投与群(200例)および36ヵ月投与群(200例)に無作為割付された。このうち、同意が得られた12ヵ月投与群の199例ならびに36ヵ月投与群の198例をintention-to-treat(ITT)解析の対象とした。患者背景因子に関して両群間に偏りは認めなかった。遺伝子変異解析は397例中366例(92.2%)で実施され、このうち333例(91.0%)にKIT変異またはPDGFRA変異が検出された。
2)有効性
追跡期間中央値は54ヵ月(41~66ヵ月)であった。ITT解析によるRFSは、12ヵ月投与群に比べて36ヵ月投与群で有意に改善された(5年RFS 47.9% vs. 65.6%、ハザード比[HR]0.46; 95%信頼区間[CI] 0.32~0.65、p<0.001、図1A)。
追跡期間中の死亡例は、12ヵ月投与群で25例であるのに対し、36ヵ月投与群では12例と少なかった。ITT解析の結果、OSは12ヵ月投与群に比べ36ヵ月投与群で有意に改善された(5年生存率 81.7% vs. 92.0%、HR 0.45、95%CI 0.22~0.89、p=0.02、図1B)。GIST特異的生存率は、12ヵ月投与群に比べ36ヵ月投与群において良好な傾向がみられた(5年生存率 88.5% vs. 95.1%、HR 0.46、95%CI 0.19~1.14、p=0.09)。
サブグループ解析の結果、36ヵ月投与群の有意なRFS改善効果は年齢、原発部位、腫瘍径、分裂像数(中央判定)、腫瘍破裂、腫瘍遺残度によらず認められた。変異部位別の解析では、RFSに関する36ヵ月投与群の優越性はKITエクソン11変異例のみで認められ、KITエクソン9変異例、PDGFRA変異例および野生型GISTでは認められなかった(図2)。



3)有害事象
GISTの再発以外の理由による治療中止例は、12ヵ月投与群に比べて36ヵ月投与群で多く(25.8% vs. 12.6%)、主な中止理由は有害事象であった。有害事象は、両群のほぼ全例に発現したが、その多くは軽度であった。グレード3または4の有害事象は12ヵ月投与群および36ヵ月投与群のそれぞれ39例(20.1%)および65例(32.8%)に発現し、投与中止に至った有害事象はそれぞれ15例(7.5%)および27例(13.6%)に発現した。心イベントの発現率はいずれの群においても低かった(12ヵ月投与群4.1%、36ヵ月投与群2.0%)。
考察
再発の高リスクのGIST切除例に対する術後補助療法として、36ヵ月間のイマチニブ投与は、12ヵ月間の投与に比べてRFSを有意に改善したのみならず、OSも有意に延長した。 イマチニブ術後補助療法に忍容性は概して良好であったが、両群ともほぼすべての症例において何らかの有害事象が発現し、GISTの再発以外の理由で治療中止に至った患者は12ヵ月投与群よりも36ヵ月投与群に多かった。今後、本研究の症例をさらに追跡し、OSの改善効果を検証するとともに、より長期にわたるイマチニブ術後補助療法の有効性を検討することが求められる。
コメント
本試験は、GISTの補助療法の有用性を検討した試験の中で、初めてOSにおける統計学的有意差を示した試験である。本試験の結果をもって、腫瘍径10 cm超、分裂像数10/50HPF以上、腫瘍径5 cm超かつ分裂像数5/50 HPF以上のいずれかを有するhigh risk GISTにおいては、術後3年間イマチニブを投与することが標準治療と考えられるようになった。ただし、本試験は腫瘍破裂の症例が20%も含まれており、これらは術後の再発が必発であることから、補助療法というよりもむしろ治癒切除不能というべき対象であったと考えられる。また、36ヵ月間投与群に比べて12ヵ月投与群に他病死例が多かったことも、OSで有意差がついた理由の1つと言えよう。今後の興味としては、術後3年間よりもさらに長く、たとえば5年間あるいは一生涯投与した方がいいのかという点と、再発の中間リスクのGIST切除例に対しては補助療法が有用であるのか、有用であるならば何年間投与すべきかという点にある。
引用文献
- 1) Dematteo RP, et al; Lancet. 2009; 373: 1097-1104.
- 2) Fletcher CD, et al. Hum Pathol. 2002; 33: 459-465.
- 3) Joensuu H. Hum Pathol. 2008; 39: 1411-1419.