文献紹介
日本人の初発GIST完全切除後の高リスク症例に対するイマチニブアジュバント療法
Adjuvant therapy with imatinib mesylate after resection of primary high-risk gastrointestinal stromal tumors in Japanese patients
Kanda T, et al. Int J Clin Oncol. 2013;18:38-45
川崎医科大学消化器外科 平井敏弘
背景・目的
初発GISTに対する治療の原則は外科的切除であるが、再発リスクの高い症例では2年再発率が50%を超えることから1)、イマチニブによるアジュバント療法が考慮される。米国の初発GIST完全切除例を対象にイマチニブアジュバント療法の有効性を検討したACOSOG Z9001試験では、術後1年間のイマチニブ投与により、プラセボに比して1年無再発生存率(RFS)が有意に改善され(97.7% vs. 82.3%)、忍容性も良好であることが示された2)。しかし、欧米人より体格の小さい日本人や東アジア人は、欧米人に比してイマチニブアジュバント療法の忍容性が低い可能性があり、Z9001試験の成績がそのまま当てはまるとは限らない。そこで、日本人の高リスクGIST患者を対象としてイマチニブアジュバント療法の有効性と安全性を検討する第II相試験を実施した。
対象および方法
本試験は、単アーム・オープンラベル・多施設共同第II相試験である。対象は、組織学的にKIT陽性の初発GISTであることが確認され、完全切除後、再発リスクが高いと判断された20~75歳の患者であった。再発リスクはNIH分類を用いて評価し3)、①腫瘍径>5 cmかつ核分裂像数>5/50 HPF、②腫瘍径>10 cm、③核分裂像数>10/50 HPFのいずれかを満たす場合を高リスク症例とみなした。すべての適格例に対してイマチニブ(400 mg/日)を術後84日以内に開始し、1年間継続した。主要評価項目はRFS、副次的評価項目は全生存率(OS)および安全性であった。
結果
1)人口統計学的特徴および臨床病理学的特徴
2004年9月~2006年7月の間に全国17施設より64症例(男性41例、女性23例)が登録された。年齢中央値は59.5歳(27~74歳)であり、ECOG PSは0が56例(87.5%)、1が8例(12.5%)であった。原発部位は胃(62.5%)が最も多く、次いで小腸(25.0%)であった。腫瘍径中央値は9.0 cm(2.8~30.0 cm)、核分裂像数中央値は15/50 HPF(0~149/50 HPF)であった。
2)feasibilityおよび安全性
49例(76.6%)が1年間のイマチニブアジュバント療法を完遂した。治療中止例は15例(23.4%)であり、中止理由は再発(2例)、副作用(10例)および副作用による同意撤回(3例)であった。
治療関連有害事象は全症例に発現したが、多くはグレード1または2であり、忍容性は良好であった。最も頻度の高い薬物有害反応は眼瞼浮腫(48.4%)であり、次いで好中球減少症(40.6%)、白血球減少症(39.1%)、悪心(39.1%)、発疹(37.5%)、末梢浮腫(37.5%)であった。グレード3以上の薬物有害反応は22例(34.4%)に発現し、主なものは好中球減少症(14.1%)、白血球減少症(4.7%)、リンパ球減少症(3.1%)、発疹(3.1%)であった。グレード4の有害事象は4例に発現し、その内容は好中球減少症、肥大型心筋症、前立腺癌、自殺念慮であった。また1例が自殺により死亡した。好中球減少症の大半は非発熱性であり、休薬により管理可能であった。
3)有効性
追跡期間中央値は109週間であり、64例に計20イベントが発現した。3年再発率は42.7%(95%信頼区間29.2~56.3%)であり、予め推算された再発率(20%)を上回っていた。
Kaplan-Meier法による1年、2年および3年RFSはそれぞれ94.7%、71.1%および57.3%であり、解析時点で無再発生存期間中央値には達していなかった(図)。RFS曲線は二相性を示し、術後72週目以降、急激な低下が認められた。治療期間中、2例が再発をきたした。これら2例はそれぞれ小腸原発のKITエクソン9変異例および胃原発の野生型GISTであり、いずれも肝転移であった。
死亡例は8例であり、4例がGISTによる死亡、残る4例は他疾患による死亡であった。1年、2年および3年OSはそれぞれ96.8%、93.7%および87.1%であった。
胃GISTは腸GISTに比較して予後良好とされているが、胃GIST(40例)と他臓器のGIST(24例)の間でRFS曲線を比較した結果、有意差は認められなかった。

4)遺伝子解析
遺伝子解析が可能であった62例のうち59例にKIT変異またはPDGFRA変異が検出された。イマチニブ感受性が高いとされるKITエクソン11変異例およびPDGFRAエクソン12変異例(51例;それぞれ49例および2例)について、その他のGIST(13例)とRFS曲線を比較したが、症例数が少なく、群間差は認められなかった。
考察
本研究における治療完遂率や薬物有害反応の発現率はZ9001試験と同等であり、イマチニブアジュバント療法は、日本人のGIST患者に対しても欧米人と同様に施行可能であることが示された。ただし、本研究におけるグレード3以上の好中球減少症の発現率は、Z9001試験に比べて高く(14% vs. 3%)、日本人のGIST患者に対してイマチニブアジュバント療法を施行する場合には綿密な血液モニタリングが必要であると考えられる。有効性に関して、本研究では明確な情報は得られなかったものの、RFS曲線はZ9001試験とほぼ同様であった。イマチニブアジュバント療法については、現在、長期有効性を検討すべく複数の国際第III相試験が進行中である。日本人と欧米人のGIST患者の間で有効性に差がなかったことを考慮すると、今後発表されるこれらの試験成績は、日本人や東アジア人にも外挿できると考えられる。
コメント
本論文は以下の2点において重要である。わが国では検診制度の普及により、5cm以上のおおきなGIST は非常に少なく、ハイリスクGISTの補助療法に対するエビデンスを構築することが困難であった。一方、日本人は体格が小さく、特に補助療法に関しては欧米人と同じ投与量での忍容性が危惧されてきた。本報告は、64例を対象にした単アーム・非盲検・多施設共同第Ⅱ相試験ではあるが、日本人のハイリスクGISTを対象にした、初めての補助療法の報告であり、極めて重要である。この成績を欧米の成績と比較することで、欧米のエビデンスを日本人に適応できるか否かの判断がある程度可能になる。今回の結果は、多数例を対象にしたACOSOG Z9001とほぼ同様の無再発生存率、忍容性であり、ACOSOG Z9001やSSGX Ⅷの結果を日本人に応用する根拠になり得ると思われる。もう1つ重要な点は、グレード3以上の好中球減少症の頻度がACOSOG Z9001よりも高かったことである。日本人を対象にした場合は、血液モニタリングを綿密に行うことの重要性を改めて認識する必要がある。
引用文献
- 1) DeMatteo RP, et al; Ann Surg. 2000; 231: 51-58.
- 2) DeMatteo RP, et al; Lancet. 2009; 373: 1097-1104.
- 3) Fletcher CDM, et al; Hum Pathol. 2002; 33: 459-465.