文献紹介

進行GIST患者においてイマチニブの中断および再投与が遺残腫瘍に及ぼす影響: French Sarcoma Groupによる前向き無作為化第III相試験BFR14の成績

Influence of imatinib interruption and rechallenge on the residual disease in patients with advanced GIST: results of the BFR14 prospective French Sarcoma Group randomised, phase III trial
Patrikidou A, et al. Ann Oncol. 2013; 24: 1087-1093
藤田保健衛生大学 臨床腫瘍科 澤木 明

背景

イマチニブは進行GIST患者の約90%に腫瘍コントロールをもたらすが、イマチニブの中断が二次耐性の出現や臨床転帰にどのような影響を及ぼすかは不明である。こうしたなか、French Sarcoma Groupは、イマチニブ有効例を対象にイマチニブ投与中止の影響を検討する目的で無作為化第III相試験(BFR14)を実施し、イマチニブ開始1年後、3年後および5年後のいずれのタイミングで投与を中断しても、早期に再増悪が生じることを報告している1~3)。BFR14試験では、イマチニブ中断後の増悪例に対して、イマチニブが再投与された。そこで本研究では、これらの患者を対象とし、イマチニブ再投与後の治療反応性やイマチニブ中断期間が二次耐性の出現に及ぼす影響を検討した。

対象・方法

BFR14試験には、2002年6月~2009年7月の間に進行GIST患者434例が登録され、イマチニブ投与開始後1年、3年または5年の時点で病勢コントロールCRPRまたはSD)の得られた患者がイマチニブ中断群または継続群に無作為割り付けされた。本研究では、イマチニブ中断群に割り付けられた71例のうち、増悪が確認され、イマチニブが再投与された51例(1年後中断群25例、3年後中断群20例、5年後中断群6例)を対象とした。データカットオフは2012年1月であり、解析項目は、無作為化時、再発時およびイマチニブ再投与後における抗腫瘍効果および腫瘍径、無増悪生存期間(PFS)、二次耐性出現までの期間などであった。生存解析にはKaplan-Meier法を用い、群間比較はlog-rank検定により行った。

結果

対象

51例の平均年齢は60歳、男女比は27:24であり、6割の患者はECOG PS 0であった。転移状況は、肝転移49%、腹膜転移21%、肝および腹膜転移12%、その他の部位18%であった。腫瘍径中央値は、無作為化時点で2.7 cm(0~33.8 cm)であったが、本研究への組み入れ時点では8.9 cm(0~38.4 cm)であった。無作為化時点での奏効率は、CR 35%(18例)、PR 47%(24例)、SD 18%(9例)であった。

イマチニブ中断後の経過

無作為化時点からのPFS中央値は、1年後、3年後および5年後中断群においてそれぞれ6.0ヵ月、7.1ヵ月および10.8ヵ月であった。再増悪時期は、イマチニブ中断後6ヵ月未満が20例、6~12ヵ月未満が20例、12ヵ月以降が11例であった。無作為化時の奏効状態は、イマチニブ中断後のPFSと関連しており、CR、PRおよびSD症例におけるPFS中央値はそれぞれ10.5ヵ月、6.1ヵ月および3.2ヵ月であった(1, log-rank検定、p=0.0375)。51例中18例(35%)は既存病変の増悪を認めたのに対し、33例(65%)は新規病変の出現を認め、うち17例は同時に既存病変の増悪も認めた。無作為化時にCRであった患者の61%では新規病変が認められたのに対し、PRやSD症例は、既存病変の増悪を認めるケースが多かった。

図1 無作為化時の奏効別にみた無増悪生存曲線
図1 無作為化時の奏効別にみた無増悪生存曲線

イマチニブ再投与後の奏効率

イマチニブ再投与後、51例中49例(96%)で病勢コントロール(CR+PR+SD)が得られた。イマチニブの再投与が無効であった2例は、いずれも1年後中断群の患者であり、無作為化時点でPRが得られていた。1年後、3年後および5年後中断群におけるイマチニブ再投与後の病勢コントロール率はそれぞれ92%、100%および100%であった。
イマチニブ再投与後の奏効率(CR+PR)は、無作為化時のCR症例およびPR症例で有意に高かったものの、初回投与時に比べて劣っていた。無作為化時のCRおよびPR症例のうち、イマチニブ再投与後に同等の抗腫瘍効果が得られたのはそれぞれ42%(8/19例)および52%(12/23例)に過ぎなかった。

イマチニブ再投与後のPFSおよび二次耐性出現までの期間

既存病変増悪例と新規病変出現例の間で、イマチニブ再投与後のPFSに有意差はなかった。一方、二次耐性出現までの期間は、イマチニブ中断期間によって異なり、中断期間が短いほど、イマチニブ再投与後、早期に増悪が認められた(2)。二次耐性の発現率は、イマチニブ中断後6ヵ月未満、6~12ヵ月未満および12ヵ月以降に再発した患者において、それぞれ70%(14/20例)、45%(9/20例)および18%(2/11例)であった(p=0.019、χ2検定)。また、2年PFSは、イマチニブ中断後6ヵ月未満、6~12ヵ月未満および12ヵ月以降に再発した患者において、それぞれ30%(95%信頼区間12~50)、62%(37~80)および75%(31~93)であった(2)。

図2 イマチニブ中断期間別にみたイマチニブ再投与後の無増悪生存曲線
図2 イマチニブ中断期間別にみたイマチニブ再投与後の無増悪生存曲線

結論

イマチニブ中断後に増悪をきたしたGIST患者において、イマチニブ再投与後の病勢コントロール率は96%と高かったが、奏効率は初回投与時に比べて劣ることが示された。また、イマチニブ中断後、早期に増悪をきたした患者は、イマチニブ再投与後の奏効期間が短かった。本成績やこれまでのBFR14試験の成績を踏まえると、実臨床では、重大な副作用が発現しない限り、イマチニブの投与中断は推奨されない。

コメント

本研究から得られる実臨床へのメッセージは、イマチニブ治療中の患者の中断は避けるということであろう。中断例と継続例で生存期間に差がなかったことから中断を容認する考え方もある。しかし、中断群でイマチニブ耐性例の出現や中断後の再投与で腫瘍の縮小率が低下することから、本研究の症例数で差が出ない程度の不利益を招くリスクがあることに注意したい。中断までの期間が1年、3年、5年と長くなると、中断から再増悪までの期間も延長しており、3年および5年治療群ではイマチニブ再投与時に二次耐性は出現していない。また、中断までの治療で縮小率が高いと再増悪までの期間が延長している。このことから長期投与例や縮小率が高い症例では、短期間の休薬のリスクは低いかもしれない。一方、腫瘍の縮小率が非常に高い完全奏効(CR)例では、再増悪時に新病変が出現する頻度が高い。新病変の出現はイマチニブ曝露の影響も否定できないが、腫瘍そのものの影響もあるのかもしれない。長期間CRが継続すると休薬や中止を検討したくなるが、本研究結果から考えるとCR例こそ休薬に慎重であるべきかもしれない。

引用文献

  • 1) Blay JY, et al. J Clin Oncol. 2007; 25: 1107-1113
  • 2) Le Cesne A, et al. Lancet Oncol. 2010; 11: 942-949
  • 3) Ray-Coquard IL, et al. J Clin Oncol. 2010; 28: 15s, (suppl; abstr 10032)