文献紹介

イマチニブおよびスニチニブ不応後の転移/切除不能GISTに対するイマチニブの再投与:無作為化プラセボ対照第III相臨床試験RIGHT

Resumption of imatinib to control metastatic or unresectable gastrointestinal stromal tumours after failure of imatinib and sunitinib (RIGHT): a randomised, placebo-controlled, phase 3 trial.
Kang Y-K, et al. Lancet Oncol. 2013; 14: 1175-1182
がん研有明病院 消化器センター 尾阪 将人

背景

イマチニブおよびスニチニブ投与後に進行をきたした転移/切除不能GISTに対する治療選択肢は限られている。これらの患者では、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)を中止すると、しばしば急速な腫瘍増大を認めることから1,2)、イマチニブが再投与されることがあるが、その有効性は検証されていない。そこで、イマチニブおよびスニチニブ不応後の転移/切除不能GISTを対象として、イマチニブ再投与の有効性と安全性を検討する無作為化プラセボ対照第III相臨床試験を実施した。

対象・方法

対象は、韓国Asan Medical Centerにおいて、一次治療のイマチニブで6ヵ月以上効果が得られた後にPDとなり、スニチニブを含むTKIに不応となった転移/切除不能GIST患者であった。これらの患者をECOG PSおよびTKI治療歴で層別化後、1:1の割合でイマチニブ(400 mg/日)群またはプラセボ群に無作為割り付けし、盲検下で治療した。両群の患者に対してbest supportive careが施行された。進行時には盲検が解除され、プラセボ群ではイマチニブへのクロスオーバー、イマチニブ群ではイマチニブの継続が許容された。
治療効果判定は、CTスキャンにより、最初の4ヵ月間は4週ごと、以降は8週ごとに行った。主要評価項目は、中央判定による無増悪生存期間(PFS)であり、副次評価項目は12週後の病勢コントロール率(DCR)、全生存期間(OS)などであった。

結果

2010年7月20日~2013年1月17日の間に81例が登録され、41例がイマチニブ群、40例がプラセボ群に割り付けられた。患者の約4割は、登録前に三次以上のTKI治療(ニロチニブ、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、dovitinib)を受けていた。また、患者の約6割は一次治療として、イマチニブ(400 mg/日)の投与を2年以上受けていた。一次治療耐性後イマチニブ群全例、プラセボ群88%で、イマチニブの増量を行っていた。初期変異としては、KITエクソン11変異が最も多く、約8割を占めていた。
追跡期間中央値は5.2ヵ月(四分位範囲 [IQR] 3.4~9.4ヵ月)であり、中央判定による進行または死亡例は、イマチニブ群30例(73%)、プラセボ群34例(85%)であった。PFS中央値はイマチニブ群1.8ヵ月(95%信頼区間 [CI] 1.7~3.6)、プラセボ群0.9ヵ月(0.9~1.7)であり、イマチニブ群で有意に延長された(ハザード比 [HR] 0.46、95%CI 0.27~0.78、p=0.005、log-rank検定、)。事後解析の結果、イマチニブのPFS改善効果は4週後から認められ(DCR 73% vs. 43%、p=0.005)、12週後まで持続していた(32% vs. 5%、p=0.003、)。サブグループ解析の結果、イマチニブのPFS改善効果は、年齢、性別、三次治療の有無、ECOG PS、原発部位、一次治療の期間、セカンドライン治療の期間、変異部位などに影響されないことが示された。
プラセボ群では、40例中37例が進行後にイマチニブ治療を受け、クロスオーバー後のPFS中央値は1.7ヵ月(95%CI 1.5~2.0、施設判定)であった。一方、イマチニブ群では、進行後に41例中17例がイマチニブを継続し、9例が他のTKIによる治療を受けた。プラセボ群の1例およびイマチニブ群の4例は進行をきたすことなく、治療を継続した。OS中央値はイマチニブ群8.2ヵ月(95%CI 5.5~12.8)、プラセボ群7.5ヵ月(4.4~12.4)で有意差はなかった(HR 1.00, 95%CI 0.58~1.83、p=0.92、log-rank検定、図および表)。
安全性に関しては、両群ともに治療関連死は認められなかった。グレード3/4の有害事象として、貧血(イマチニブ群 vs. プラセボ群、29% vs. 8%)、倦怠感(10% vs. 0%)、高ビリルビン血症(7% vs. 3%)などが報告されたが、有害事象による用量調整や休薬はなかった。

図 無増悪生存曲線(A)および全生存曲線(B)
図 無増悪生存曲線(A)
図 全生存曲線(B)
表 副次評価項目
    イマチニブ群(n=41) プラセボ群(n=40) ハザード比(95%信頼区間) p
抗腫瘍効果       0.027
  CRまたはPR 0 0  
  SD 17(41%) 6(15%)  
  PD 19(46%) 29(73%)  
  評価せず 5(12%) 5(13%)  
12週後の病勢コントロール率* 13(32%) 2(5%) 0.0032
無増悪期間(ヵ月)† 1.8(1.7~3.6) 0.9(0.9~1.7) 0.48(0.28~0.82) 0.0024
全生存期間(ヵ月) 8.2(5.5~12.8) 7.5(4.4~12.4) 1.00(0.58~1.83) 0.92

データは、特に指定のない限り、症例数(患者割合、%)または中央値(95%信頼区間)である。*完全奏効(CR)または部分奏効(PR)、安定(SD)が12週以上持続。†無作為化から進行までの期間。

結論

イマチニブならびに他のTKIに不応となった転移/切除不能GISTにおいて、イマチニブの再投与はプラセボに比べてPFSを有意に改善することが示された。これらの患者のGIST細胞の大部分はイマチニブ感受性を保持しており、イマチニブの再投与は、そのキナーゼ活性を持続的に阻害することで有効性を発揮したと推察される。本結果を踏まえると、TKI不応後のGIST患者を対象とした今後の無作為化臨床試験では、プラセボに代わり、イマチニブを対照薬とするのが合理的と考えられる。

コメント

本研究は、イマチニブ、スニチニブ不応患者に対する、イマチニブ再投与の有効性を検証した試験である。国内外の後方視的研究よりイマチニブ不応患者へのイマチニブ再投与の有効性は期待されていたが、前向きに検証した試験は本試験が初である。
主要評価項目であるPFSはイマチニブ群で有意に延長されることが示されたが、プラセボ群ではPD後にイマチニブ投与のクロスオーバーが認められていたためOSでは有意差を認めなかった。これは治療初期において比較的短期間(4週ごと)に腫瘍評価を行い、プラセボ群での腫瘍増悪を早期に拾い上げイマチニブ投与につなげたこと(90%以上がイマチニブ投与)も影響していると考えられ、プラセボ群クロスオーバー後のイマチニブPFSは1.7ヵ月とイマチニブ群のPFSとほぼ同等であったことからも、病勢コントロールという点からはイマチニブ再投与の意義は示されている。ただし、GRID試験の結果を踏まえると、イマチニブ、スニチニブ耐性GISTに対する標準治療はやはりレゴラフェニブであると言わざるを得ない。本試験では、三次治療以降の治療歴を有する患者が約40%含まれており、そのうちレゴラフェニブ投与歴を有する患者はイマチニブ群で12%、プラセボ群で25%であった。レゴラフェニブ投与後に限ると少数例であり、本試験の結果をそのまま外挿できるかは議論があるが、三次治療耐性後の治療選択肢としても、イマチニブ再投与を検討してもよいであろう。
分子標的薬では、縮小後増大した残存感受性クローンに対する再投与の意義については、大腸癌に対するEGFR阻害剤などでも期待されており、本試験が与えたインパクトは大きい。

引用文献

  • 1) Italiano A, et al. Ann Surg Oncol. 2012; 19: 1551-1559
  • 2) Van den Abbeele A, et al. Proc Am Soc Clin Oncol. 2004; 14 (suppl): 198