文献紹介

進行性消化管間質腫瘍の患者さんにおけるイマチニブの中断と1年間を超える治療継続を比較した前向き、多施設共同、無作為化、第Ⅲ相臨床試験

Prospective multicentric randomized phase III study of imatinib in patients with advanced gastrointestinal stromal tumors comparing interruption versus continuation of treatment beyond 1 year: the French Sarcoma Group.
Blay JY et al. J Clin Oncol. 2007; 25(9): 1107-1113
国立がん研究センター中央病院 西田俊朗

背景

イマチニブは進行消化管間質腫瘍GIST)の患者さんに対する第一選択薬であるが、イマチニブ有効例において投与を中止してよいかどうか明らかではない。そこで本研究は、イマチニブ有効例に対する投与中断の影響を無作為化、多施設共同、第Ⅲ相臨床試験で検討した。

対象と方法

進行性GISTの患者さんのうち、1年間以上のイマチニブ400 mg/日治療後に病勢コントロールが得られている患者さん(CR[完全奏効]PR[部分奏効]SD[安定])58例を対象とした。「RECIST基準に従い進行が認められるまでイマチニブ投与を中断した後、投与を再開する群(中断群)32例」と「進行あるいはイマチニブ耐性が認められるまで治療を継続する群(継続群)26例」に無作為に分け、無増悪生存期間(PFS)、生存率、中断群における投与再開の有効率、患者さんのQOLを比較した。

結果

中間解析の結果、中断群での患者さんの進行が規定数を超えたため、試験を中断した。進行した患者さんはイマチニブの服用をすぐに再開したが、21例の進行のない患者さんでは、再開したのは2例であった。その結果、継続群では26例中8例(31%)が進行したのに対して、中断群では32例中26例(81%)が進行した(p<0.0001)(図A)。中断群の無増悪生存期間の中央値は6ヵ月であり、投与中断1年後にはほとんどの患者さんが再発した。進行が認められイマチニブ投与を再開した26例中24例(92%)で、SD以上の病勢コントロールが得られた。イマチニブ中断による急速増悪は示唆されたが、長期的には、投与中断による全生存率への影響はなく(図B)、イマチニブ耐性に対しても差はなかった(図C)。
さらに無作為化時にCTによる病変部がない(CR)患者さんと、病変部のある患者さんの増悪率を比較した。中断群では病変部の有無でPFSに有意な差はなかったが、継続群では、病変部のある患者さん19例中7例(37%)が再進行したのに対して、CRの患者さん全7例で進行はなかった(0%、p=0.05)。
試験中に認められたイマチニブの副作用は、好中球減少、無力症発疹などであり、限定的であった。QLQC30※を用いた無作為化6ヵ月後のQOLスコアは、回答人数が半数と限られたものだったが、中断群と継続群間に有意差はなかった。
※EORTC(欧州がん治療研究機構)が開発した、QOL評価のための、30項目からなる質問票。

図A

図B

図C

結論

イマチニブ投与の中断は、多くの進行性GISTの患者さんで、継続群に比較して急速な増悪を招いた。イマチニブ中断により、副作用軽減によるQOLの改善は本試験では認められなかった。イマチニブ中断後の投与再開は、再発再進行時の病態コントロールに有用であり、本試験では、長期的には、中断によるイマチニブ耐性発現や全生存に対する影響は示されなかったが、重篤な副作用を呈さない限り、イマチニブ中断は望ましくないと結論付けられる。

コメント

イマチニブはGISTに対し高い奏効率と忍容性を示したが、いつまで治療を継続すべきか不明であった。本論文は2004年のASCOに発表され話題を集めた研究で、イマチニブ治療中の進行再発GISTにおいて、イマチニブ中断が患者さんや腫瘍にどのような影響を及ぼすか検討した前向きの無作為化臨床試験である。本研究では、イマチニブ有効例で、PFSをprimary endpointとし、全生存期間(OS)、イマチニブ再開後の奏効率、中断と継続時のQOL比較をsecondary endpointとして臨床研究が行われた。CR率が相対的に高い(29.6%)のは、イマチニブ奏効後の外科切除が行われたためである。上記のように結果は、PFSは中断群で悪く、OSとQOLには差を認めず、イマチニブ中断後に再進行を認めてもイマチニブ再開で病勢のコントロールは可能であることが明らかとなった。したがって忍容性が許す範囲内では、中断により確実に病勢は進行するので、イマチニブは中断せず継続すべきで、有害事象が重篤な場合は一時中断し、有害事象回復後にイマチニブを再開すれば、再び病勢のコントロールが期待できることを示している。注目すべき点は、CR症例と非CR症例のPFSを比較すると、①中断群では両者に差はなく、進行・再発GISTではイマチニブがよく効きCRになっても腫瘍細胞は存在しているため中断すべきでないこと、②継続群では、CR症例では耐性出現が長期間みられず、イマチニブ奏効後のサルベージ切除の有用性を間接的に示していること1)、である。
本試験はフランスの肉腫グループが行っているが、同様のやや小規模の無作為化されていない臨床研究が韓国からも報告されている2)。本研究の素晴らしいところは、臨床的にはっきりと結論を出すためにイマチニブ中止群と継続群を無作為化しているところである。

[引用文献]

  • 1) Rutkowski P, et al. J Surg Oncol. 2006; 93: 304-311.
  • 2) Lee JL, et al. Jpn J Clin Oncol. 2006; 36: 704-711.