文献紹介

イマチニブ治療3年後における投与中断の影響~進行性GISTの患者さんを対象としたオープンラベル多施設共同無作為化第Ⅲ相試験(BFR14試験)

Discontinuation of imatinib in patients with advanced gastrointestinal stromal tumours after 3 years of treatment: an open-label multicentre randomised phase 3 trial.
Le Cesne A, et al. Lancet Oncol. 2010; 11: 942-949
富山大学大学院医学薬学研究部消化器造血器腫瘍制御内科学 内科学第三講座 教授 杉山敏郎

背景・目的

イマチニブにより進行性GISTの予後は著明に改善したが、いつまでイマチニブ投与を継続すべきか不明である。そこで、イマチニブ有効例に対してイマチニブの投与中断が与える影響を検討するために、フランスSarcoma Groupを中心にBFR14試験が実施された。これまでのBFR14試験の報告では、1 年間のイマチニブ投与による病勢コントロール例において、イマチニブの投与中断が急速な腫瘍の増悪を誘発することが示されている(BFR14-1yr試験、Blay JY et al. J Clin Oncol. 2007; 25: 1107-1113)。本稿では、BFR14試験のうち、イマチニブ治療開始から3年間病勢コントロールを維持していた患者さんを対象として、投与中断の影響を検討した結果(BFR14-3yr試験)を報告する。 

対象・方法

BFR14試験はフランスにおけるオープンラベル多施設共同無作為化第Ⅲ相試験であり、2002年5月27日から2009年5月5日までに434名の進行性GISTの患者さんが登録された。今回の対象は、2005年6月13日から2007年5月30日までに3年間のイマチニブ400 mg/日治療により、病勢コントロール(RECIST基準完全奏効[CR]部分奏効[PR]安定[SD])が可能であった患者さん50名とした。対象の患者さん50名は、“病勢進行(PD)に至るまでイマチニブ投与を中断し、増悪後は投与を再開する群(中断群)”と“PDあるいはイマチニブ耐性に至るまで投与を継続する群(継続群)”の2群、各25名にコンピュータにより無作為割付された。患者さんは3ヵ月毎にCT検査による経過観察を受けた。中断群ではPDが確認され次第イマチニブの投与が再開され、400 mg/日投与で増悪した場合は増量(600~800 mg/日)された。プライマリーエンドポイント無増悪生存期間(PFS)、セカンダリーエンドポイントは全生存期間(OS)、中断群におけるイマチニブ投与再開時の奏効率、耐性の出現時期とした。
PFSは無作為化日を起点とし、2群間を比較をした。

結果

患者さんの背景は、中断群では原発部位が胃5例、小腸14例であったが、継続群では胃13例、小腸8例であった。また、イマチニブ治療単独あるいは残存病変の全切除によりCRを得ていた患者さんが両群に各9例含まれていた。遺伝子の変異については、検査された32例のうちc-kit遺伝子エクソン11変異例が28例を占め、エクソン9変異例が2例、エクソン17変異例が1例、c-kitおよびPDGFRA遺伝子のいずれにも変異のない野生型が1例であった。
中断群でのPD患者さんが多数に及んだことから(中断群25例中PD12例、継続群25例中PD1例)、データモニタリング委員会は2007年5月30日に無作為化の中止を決定した。2009年12月7日までの追跡期間中(中央値35ヵ月)、中断群では25例中21例が増悪したのに対して、継続群では25例中7例にとどまった。無作為化からPDに至るまでの期間は、中断群では中央値9ヵ月と短かったが、継続群では中央値に達しなかった(p<0.0001)。また、2年PFSは中断群が16%であり、継続群の80%と比較して有意に低かった(p<0.0001、1)。中断群におけるRECIST基準のPDの患者さんの割合は、中断6ヵ月後で36%、9ヵ月後で52%、12ヵ月後で68%であった。なお、無作為化時にCRであった患者さんの9例中5例が投与中断後に増悪し、CRが得られていても腫瘍細胞が残存することが示唆された。ただし、イマチニブ中断前にCRあるいはPR(残存病変が1cm未満)を得ていた患者さん11例では、そうでない患者さん14例と比較してPFSが長かった(中央値12.3ヵ月 vs. 4.8ヵ月、p=0.010)。
中断群のうち4例が無増悪であったが、そのうち2例は解析時に無増悪でイマチニブ再開を拒否した患者さんであった。1例は無増悪で6ヵ月後にイマチニブを再開し、1例は無作為化を承諾したにもかかわらずイマチニブを継続していた患者さんであった。また、中断群でPDに至った21例中20例はイマチニブ投与を再開し(1例は自殺)、再開3ヵ月後に全例でSD以上の病勢コントロールを得た。
イマチニブ耐性発現に対する投与中断の影響を検討した結果、投与再開後の24.9ヵ月間(中央値)に中断群では6例、継続群では7例が耐性を示し、両群の耐性に至る期間に有意な差はないことが示された(p=0.826、2A)。さらに、予後への影響に関しては、追跡期間中に中断群では自殺1例、継続群ではGIST関連死2例の死亡例が認められた。2年OSは中断群96%、継続群92%と両群に有意な差はなく(p=0.588、2B)、投与中断の予後への影響は認められなかった。
安全性に関しては、中断群5例および継続群4例にGrade 3以上の有害事象(浮腫、無力症)が発現した。なお、中断群の3例は増悪後あるいはイマチニブ再開後に有害事象が発現した。

図1 PFS
図1 PFS
図2 A:中断群、継続群のイマチニブ耐性PFS
B:中断群、継続群のOS
図2 A:中断群、継続群のイマチニブ耐性PFS B:中断群、継続群のOS

考察

BFR14-1yr試験の中断群32例とBFR14-3yr試験の中断群25例では、PFSの中央値はそれぞれ7.3ヵ月および9.0ヵ月と短く、イマチニブの病勢コントロール期間にかかわらず投与中断によって急速に病勢が進行することが示された。本試験では、投与中断によるイマチニブ耐性発現やOSに対する影響は示されなかったが、少人数の解析のため確証は得られていない。したがって、相当な副作用を経験しない限り、イマチニブ中断は望ましくないと考えられる。ただし、イマチニブ中断がOSに対して影響を与えなかったことから、継続投与が困難な不快な副作用が発現した場合は、一旦休薬してから再開することが可能とも考えられる。

コメント

イマチニブの出現により手術不能GISTの生命予後は著しく改善した。イマチニブ治療では病理学的な完全寛解頻度は高くないが、イマチニブ奏功時のGIST肝転移巣は低吸収巣となりPET検査でも取り込みがなく、イマチニブ治療を中止できる可能性がある。他方、長期間に及ぶイマチニブ治療により耐性クローンを誘導する可能性も推測されている。これらを証明すべく、BFR14試験が計画された。既に1年間のイマチニブ投与後に病勢コントロールされたGISTの患者さんを服薬継続群と休薬群に無作為化し、再発を観察した成績が報告されている。本論文はBFR14試験の3年後の試験であり、継続群と休薬群に無作為化し、両群の再発、イマチニブ耐性出現、全生存期間を比較した。結果は3年後であっても休薬群では早期に再発(PFS中央値は9.0ヵ月)し、1年後の休薬群とほぼ同期間で再発する。すなわち3年間、病勢コントロール下にあってもイマチニブは中止できない。この成績は最近、報告された完全切除後の3年間のアジュバント試験成績(3年間のアジュバント治療後にも再発する)にも類似する。他方、休薬群は再発後にイマチニブが再投与されているが、継続群と再投与群の全生存期間は同じであった。このことはイマチニブを休薬し、再発が認められた時点で再導入するオプションもあり得ることを示唆する。この試験の注目すべき点は継続群であっても休薬群であってもイマチニブ耐性出現頻度が同じ点であり、イマチニブ継続投与によるイマチニブ耐性誘導の可能性は低そうであることが示唆される。慢性骨髄性白血病ではイマチニブ治療による治癒群(服薬中止後も再発しない)が見られそうであるが、GISTでは現時点では基本的には3年間、病勢コントロール下にあってもイマチニブ治療は中止しないほうが良い。さらに長期間、病勢コントロール下にある場合の成績が必要となるが、本試験は「最初で最後」の臨床試験となるかもしれない。