文献紹介

第Ⅲ相臨床試験におけるKit受容体型チロシンキナーゼ発現のGIST(切除不能または転移性)患者さんでのイマチニブ投与量の検討:S0033

Phase III randomized, intergroup trial assessing imatinib mesylate at two dose levels in patients with unresectable or metastatic gastrointestinal stromal tumors expressing the Kit receptor tyrosine kinase: S0033
Blanke CD, et al. J Clin Oncol. 2008; 26: 626-632
国立がん研究センター中央病院 西田俊朗

背景

多くのGISTでは、チロシンキナーゼであるKITの発現やPDGFRαの遺伝子変異などが認められている。イマチニブは、これらを阻害する分子標的薬剤である。400~800mg/日の投与量を用いたこれまでの第Ⅱ相および第Ⅲ相の臨床試験においては、投与量による明らかな臨床効果の差は認められていない。

目的

本臨床試験では進行性GIST患者さんに標準用量(400mg)と高用量(800mg)のイマチニブを投与し、イマチニブの投与量に関して、無増悪生存期間並びに全生存期間の比較検討を行った。

方法

免疫組織学的にCD117の発現を認めた15歳以上の切除不能GIST患者さん746例を対象とした。患者さんを無作為に標準用量群と高用量群に割り付け、標準用量群はイマチニブ400mgを1日1回、高用量群は400mgを1日2回経口投与し、4週間後にRECIST(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors)に基づき治療効果を判定した。また、両群の無増悪期間および全生存期間を検討し、さらに、生存と相関する予後因子を多変量解析により同定した。なお、血液毒性を除く、grade2以上の副作用を認めた場合にはgrade1以下になるまで休薬した。休薬後の再投与ではgrade2は同量を投与し、grade3もしくは4の場合は減量した。標準用量群において腫瘍の進展を認めた時点で高用量を投与することとした。

結果

1)臨床効果

解析対象となった症例は標準用量群345例、高用量群349例であり、追跡期間の中央値は4.5年であった。標準用量群と高用量群におけるCRおよびPRはそれぞれ5% vs 3%と40% vs 42%であり、全体的な奏効率は両群ともに45%で、両群に有意な差はみられなかった(表1)。さらに、無増悪生存期間の中央値は、18ヵ月vs 20ヵ月(p=0.13)であり、また、全生存期間の中央値はそれぞれ55ヵ月vs 51ヵ月であり(ハザード比0.98、p=0.83)、無増悪生存期間および全生存期間ともに両群に有意な差はみられなかった(図1)。

表1 イマチニブの奏効例
治療効果 STI-571
400 mg/日   800 mg/日
No.   No.
CR 17 5   12 3
PR 137 40   148 42
SD 85 25   76 22
PD 42 12   37 10
Assessment inadequate 34 10   52 15
トータル 345 100   349 100
図1 無増悪生存率
図1 無増悪生存率

2)安全性および忍容性

本試験におけるgrade3~5の有害事象を表2に示す。イマチニブの投与による副作用は軽度から中等度のものが一般的であったが、忍容性は概ね良好であった。grade3~5の副作用の発現率は標準用量群43%(149例/344例)、高用量群 63% (219例/347例)であり、標準用量群の2例、高用量群 の9例が治療に関連すると思われる有害事象で死亡した。高用量群では重篤な副作用や死亡が多く認められた。

表2 投与に関連するgrade 3~5の副作用
副作用 STI-571
400 mg/日(n=344) 800 mg/日(n=347)
grade grade
3 4 5 3 4 5
No. No. No. No. No. No.
死亡、原因不明 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 1
アレルギー/免疫系 0 0 0 0 0 0 1 <0.5 0 0 0 0
聴覚/聴力 0 0 0 0 0 0 1 <0.5 0 0 0 0
血液/骨髄毒性 52 15 15 4 1 <0.5 65 19 27 8 0 0
循環器系
  不整脈 5 2 0 0 0 0 3 1 0 0 1 <0.5
   一般 15 4 3 1 0 0 36 10 8 2 0 0
全身症状 12 4 2 1 0 0 27 8 2 1 1 <0.5
皮膚科系/皮膚症状 13 4 1 <0.5 0 0 25 7 1 <0.5 0 0
胃腸症状 28 8 3 1 0 0 51 15 3 1 0 0
出血 14 4 2 1 2 1 27 8 7 2 4 1
肝臓 12 4 0 0 0 0 7 2 5 1 1 <0.5
感染症/発熱 13 4 2 1 0 0 18 5 3 1 2 1
好中球減少
代謝系/検査値の異常 7 2 0 0 0 0 7 2 3 1 0 0
筋・骨格系 2 1 0 0 0 0 2 1 0 0 0 0
神経系 9 3 3 1 0 0 8 2 0 0 2 1
視覚/視力 0 0 0 0 0 0 2 1 0 0 0 0
疼痛 35 10 2 1 0 0 38 11 4 1 0 0
5 2 2 1 0 0 13 4 0 0 0 0
腎臓/泌尿・生殖器系 3 1 0 0 0 0 5 1 2 1 0 0
症候群 0 0 0 0 0 0 1 <0.5 0 0 0 0
副作用の最大grade到達数 120 27 2 162 48 9

3)用量変更/高用量の投与

両群において副作用により少なくとも1回の休薬を要した症例は、標準用量群が38%(124例/330例)、高用量群59%(198例/333例)、400mgから800mgに変更したクロスオーバー群では23%(18例/77例)あった。また、最低1回の投与量の減量を要した症例はそれぞれ16%(52例/330例)、58%(192例/333例)および18%(14例/77例)であり、高用量群では減量を要した症例が有意に多かった(p<0.0001)。

4)クロスオーバー群の成績

腫瘍の進展により400mgから800mgに増量した症例は133例であった。評価可能症例は117例で、その内の部分奏効率は3%(3例/117例)であり、28%(33例/117例)に病勢の安定がみられた。また、クロスオーバー後における無増悪生存期間と全生存期間の中央値はそれぞれ5ヵ月と19ヵ月であった。

5)予後因子

多変量解析から無増悪生存期間と相関する予後不良因子としてPS 2~3(p<0.0001)、試験参加時の高好中球数(p=0.0008)が同定され、全生存期間においては高年齢(p=0.0017)、PSの不良(p<0.0001)、男性(p=0.0279)、高好中球数(p=0.0009)および低アルブミン値(p=0.0030)が同定された。

考察

本試験において切除不能のGIST患者さんにおけるイマチニブの臨床効果や安全性が確認された。投与量については、800mg群では400mg群に比べ副作用の発現率が高にも関わらず、治療効果においては400mg群を上回る成績は得られなかった。本試験では、腫瘍の進展を認める患者さんに投与量を400mgから800mg増量したところ約25%~30%の症例において腫瘍の進展が抑えられ、サルベージ療法を必要としなかった。また、忍容性も良好であった。以上より切除不能のGISTには400mgを標準用量とし、腫瘍の進展が認められた時点で800mgに増量することが適切であると考えられる。

コメント

Blankeら1) によるJCO誌に発表された本論文は、北米で行われた切除不能進行GISTに対するイマチニブ400 mg/日と800 mg/日の比較試験である。同様な比較試験がヨーロッパ+オーストラリアで行われ、Verweij ら2) が2004年にprimary endpointであるprogression-free survival (PFS)が有意にイマチニブ800 mg/日群で良好であったことをLancet誌に報告している。Response rateは両研究の間には大きな開きはなく、全生存期間 (OS)は両研究とも有意差を認めなかった。また、イマチニブ400 mg/日で病勢進行(PD)になった時、800 mg/日に増量することで両試験とも2~3%の患者さんが部分寛解 (PR)反応を示し、約30%の患者さんが安定 (SD)を示した1) 3) 。このように両試験ともほぼ同等の結果を示した。さらに、この両臨床試験のデータを合わせたメタアナリシス(MetaGIST)でも、二用量比較に関して、全症例解析では800 mg/日でPFSは有意に改善、OSは差なしとなった。特に、より高用量のイマチニブが必要と考えられるKIT遺伝子エクソン9に遺伝子変異を持つGISTに関して、サブ解析も行われたが、この解析でもPFSは有意に改善、OSには差を認めなかった。
以上から、進行GISTのイマチニブ治療の標準投与量は400 mg/日で、PD時に増量が可能であれば(本邦では保険適応外である)、800 mg/日までの増量は臨床的な意義があると考えられる。

[引用文献]

  • 1)Blanke CD et al. J Clin Oncol. 2008; 26: 626-632
  • 2)Verweij J et al. Lancet. 2004; 364: 1127-1134
  • 3)Zalcberg JR et al. Eur J Cancer. 2005; 41: 1751-1757