文献紹介

日本人GIST患者さんにおけるイマチニブ(STI571)の有効性と安全性:phase II試験(STI571B1202)

Efficacy and safety profile of imatinib mesylate(STI571)in Japanese patients with advanced gastrointestinal stromal tumors: a phase II study (STI571B1202).
Nishida T, et al. Int J Clin Oncol. 2008; 13: 244-251
国立がん研究センター中央病院 西田俊朗

背景

KITPDGFRA遺伝子変異はGISTの進行や発生機序において中心的役割を担っている。イマチニブは、これらチロシンキナーゼを選択的に阻害する薬剤であり、GISTに対する第一選択薬として欧米では確立している。本試験では、切除不能/転移性の日本人GIST患者さんにおけるイマチニブの有効性と安全性を検討した。

対象と方法

免疫組織学的にKIT(CD117)の発現を認めた20~75歳の切除不能/転移性GIST患者さん74例を対象とし、イマチニブを400mg/日もしくは600mg/日を食後2時間以内に経口投与した。なお、腫瘍の進行が認められた場合は投与量を800mgまで増量した。イマチニブの治療効果はSWOG基準にてCTMRIを用い判定した。さらに、入院患者さん21例の血液を採取し、イマチニブの薬物動態を調べた。c-kit遺伝子の突然変異についても検討した。

結果

患者さんの年齢中央値は56歳であり、74例中28例にイマチニブ400mg/日を投与し、46例に600mg/日を投与した。

1)薬物動態

イマチニブの薬物動態パラメータを1に示す。血漿中濃度は経口投与約3~6時間後にピークに達し、その後、単相性の消失を示した。半減期は16~18時間であった。投与1日目の400mg/日群と600mg/日群のCmaxは、それぞれ2.51μg/mLと3.45μg/mLであった。ばらつきはみられたもののAUCとCmaxは用量依存性がみられた。また、連続投与によりAUCは初回投与時に比べ1.4~1.8倍増加した。

表1 GIST患者さんにおけるイマチニブ400mg/日および600mg/日の経口投与1日目および29日目の薬物動態パラメータ
薬物動態パラメータ Mean±SD(範囲)
400mg(n=9) 600mg(n=12)
投与1日目
 Tmax(h) 3.23±1.91(1.10-8.00) 6.36±2.48(2.97-8.17)
 Cmax(μg/mL) 2.51±1.00(1.29-3.78) 3.45±2.20(1.38-7.65)
 AUC0-24(μg×h/mL) 34.7±13.6(13.7-53.0) 56.1±40.8(21.5-141)
 t1/2(h) 15.5±1.9(12.7-18.2) 18.2±4.6(11.8-2.81)
投与29日目a
 Tmax(h) 3.24±2.05b (1.00-8.00) 3.61±2.02c(1.92-8.08)
 Cmax(μg/mL) 2.86±0.87b(1.77-4.27) 3.11±0.65c(2.30-4.37)
 AUC0-24(μg×h/mL) 47.6±17.0b(16.1-73.8) 58.9±11.7d(45.9-75.5)
 t1/2(h) 20.0±4.9b(9.10-25.6) 25.2±8.4d(17.8-40.5)
累積比(投与後29日/投与後1日)
 Cmax 1.2±0.6b(0.67-2.6) 1.5±0.4c(0.94-2.2)
 AUC0-24 1.4±0.5b(0.90-2.3) 1.8±0.5d(1.2-2.5)

a投与28日~31日後
bn=8
cn=7
dn=6

2)臨床効果

74例中51例(69%)でPR(部分奏効)が得られ、19例(26%)にSD(安定)、2例にPD(進行)が認められた。なお、CR(完全奏効)を認めた症例はなかった。効果発現までの期間の中央値は12週間であったが、累積効果発現率曲線から48週間後の効果発現は3例であることが示された。48例に投与期間中に進行が認められ、34例は試験を中止した。全症例における無増悪生存期間中央値は96週間であり、また、400mg群と600mg群における無増悪生存期間に有意差はみられなかった(74.1週間 vs 107.3週間;Log-rank 検定 p=0.1943、1)。Kaplan-Meier法による3年生存率は73.6%であった。なお、全生存期間は試験期間中に中央値に到達しなかった(図2)。

図1 Kaplan-Meier法によるイマチニブ各投与群の無増悪生存期間
図1 Kaplan-Meier法によるイマチニブ各投与群の無増悪生存期間
図2 Kaplan-Meier法によるイマチニブ各投与群の全生存期間
図2 Kaplan-Meier法によるイマチニブ各投与群の全生存期間

3)安全性

本試験におけるイマチニブの忍容性は概ね良好であった。全症例でイマチニブの投与に関連する副作用がみられたが、その多くはgrade 1もしくは2であった。主な副作用は、悪心(78.4%)、下痢(70.3%)、皮膚炎(62.2%)、顔面浮腫(60.8%)、下肢浮腫(58.1%)、嘔吐(54.1%)、眼瞼浮腫(51.4%)であった。grade 3もしくは4の副作用は、40例(54.1%)に認められ、好中球減少(21.6%)、貧血(17.6%)、皮膚炎(6.8%)、食欲不振(5.4%)であった。急速に腫瘍サイズの縮小を呈した症例においてもtumor lysis syndromeは認めなかった。

4)遺伝子解析

c-kit遺伝子の遺伝子解析は58例に可能で、58例中53例にc-kitの突然変異が認められ、エクソン11の変異48例、エクソン9の変異4例、エクソン13の変異1例であった。5例はc-kit遺伝子に変異はみられなかった。また、c-kit遺伝子型により治療効果を検討したサブ解析では、エクソン11や13の変異例の無増悪生存期間中央値は、エクソン9の変異例もしくは変異がみられなかった症例に比べ有意な延長がみられた(108週間 vs 75週間、Log-rank検定 p=0.0014)。

考察

本試験により、切除不能/転移性GISTにおけるイマチニブの忍容性は良好であり、明白な治療効果が示された。また、イマチニブの薬物動態は欧米の試験結果と類似しており、体重が薬物濃度に大きく影響を与えるものでないことが示唆された。さらに、イマチニブの阻害作用はc-kit遺伝子の遺伝子型によって決まることが明らかとなった。以上より、イマチニブは切除不能/転移性GISTにおける有望な治療薬になり得ると考える。

コメント

臨床試験は、本邦の8施設で行われた日本人の切除不能/転移性消化管間質腫瘍(GIST)患者さんを対象としたイマチニブの第Ⅱ相臨床試験である。イマチニブは既に欧米でその有用性と忍容性の良さを確認・報告されていたが、日本人で確認された最初の臨床研究である。奏効率は69%、病変コントロール率は95%、進行までの期間中央値は96週で、切除不能/転移性GIST患者さんの予後はイマチニブ治療により改善された。奏効率や奏効期間に腫瘍のc-kit遺伝子変異が強く関係し、GISTに最も多いエクソン11変異をもつGISTの治療効果は他の変異に比べ良好であった。日本人のイマチニブ代謝は、欧米人のデータと基本的には同じで、有害事象も全例に認めたが、軽度のものが多かった。治療効果や有害事象とも、既に報告されている欧米人を対象とした臨床試験と差のないデータが確認された。本臨床試験により、アジア人、特に日本人GIST患者さんにおけるイマチニブの有用性と忍容性が確認された。