文献紹介
消化管間質腫瘍に対する高用量イマチニブの有用性:無作為化比較試験
Progression-free survival in gastrointestinal stromal tumours with high-dose imatinib : randomised trial
Verweij J et al. Lancet 2004; 364: 1127-1134
国立がん研究センター中央病院 西田俊朗
背景
イマチニブの推奨用量は、現在のところ世界的に400mg/日とされ、EORTC第 I 相1)および第 II 相臨床試験2, 3)では、有効かつ安全なイマチニブの最大用量は800mg/日と報告された。しかし、これまでに800mg/日投与が400mg/日投与に比べて、高い有効性をもたらすか否かについては、検討されていない。そこで本研究では、転移性GISTの患者さんを対象に、イマチニブ400mg 1日1回または2回投与による有効性ならびに安全性を無作為化比較試験にて検討した。
対象と方法
組織学的にKIT陽性で進行または転移性GISTと診断された、18歳以上の患者さん946例を対象とした。これらの患者さんをイマチニブ400mg 1日1回投与(400mg群)または2回投与(800mg群)に無作為に割り付けた(各473例)。1次エンドポイントは無増悪生存(progression-free survival)期間とし、治療開始6ヵ月までは2ヵ月ごと、それ以降は3ヵ月ごとに症状の進行が認められるまで観察した。なお、400mg群の患者で症状進行が認められた場合は、800mg投与群へ移行可能とした。
結果
(1) 患者背景
年齢中央値は、400mg群で59歳(49~67歳)、800mg群で60歳(49~68歳)であった。原発巣は、胃(400mg群34%および800mg群33%)、小腸(26%および24%)および十二指腸(11%および8%)など、腫瘍存在部位は原発部位のみ(32%および35%)、肝臓(70%および73%)などであった。前治療歴は手術(87%および83%)、放射線療法(6%および8%)、化学療法(いずれも33%)が認められた。
(2) 治療効果
追跡期間644~859日(中央値760日)において、400mg群および800mg群の完全奏効(CR)は、各5%および6%、部分奏効(PR)は45%および48%、安定(SD)はいずれも32%であり、両群間に差を認めなかった(表)。追跡期間中、病勢進行を認めた例は、400mg群の56%に比べ800mg群では50%であり、有意に800mg群で優れていた(p=0.026、図1)。1年後のOverall Survivalについては、400mgで85%、800mgで86%であり、2年後では各69%、74%であった(図2)。



ドキソルビシンのデータは、比較のための掲載であり、EORTCデータに基づく。
(3) 安全性
両群とも副作用は99%で認められたが、その大半はmildであった。全例における主な副作用は、貧血(93%)、顆粒球減少(42%)、浮腫(80%)、疲労(74%)、嘔気(55%)、胸痛(53%)、下痢(52%)および発疹(37%)などで、顆粒球減少以外のいずれの事象も800mg群で有意に多く発現した。grade 3~4の副作用発現例も800mg群で有意に多く(p<0.0001)、減量例および治療中断例も、800mg群で有意に多く認められた(各p<0.0001)。
考察
本試験より、病勢コントロール(CR、PR、SD)については400mg群と800mg群の間に差を認めなかったが、progression-free survivalは800mg群が有意に優れていた。したがって、転移性GIST患者に対しては、長期にわたる良好な病勢コントロールの維持については、イマチニブ400mg 1日2回投与が望ましい可能性が示唆された。今後は、400mg 1日1回で投与を開始し、段階的に400mg 1日2回に増量する投与法の長期投与に伴うイマチニブのクリアランス上昇を考慮し、副作用を抑制し同様の治療効果が得られるかどうかの検討が必要である。
[引用文献]
- 1) van Oosterom AT et al. Lancet 2001; 358: 1421-1423
- 2) Demetri GD et al. N Engl J Med 2002; 347: 472-480
- 3) Verweij J et al. Eur J Cancer 2003; 39: 2006-2011