GIST用語集

GIST用語集(50音順)

悪性度(grade)
がんや腫瘍における、転移や再発のしやすさを表す指標です。一般の腫瘍では顕微鏡での見た目で大まかに決めることができます。しかし、GISTの場合は、見た目だけでは判断ができないため、腫瘍の大きさと腫瘍細胞分裂の速さを組み合わせたリスクで評価します。

アジュバント療法(adjuvant therapy)
再発するのを予防する目的で、手術後に抗がん剤治療を行うことをいいます。術後補助療法ともいいます。
ネオアジュバント療法

アポトーシス(apoptosis)
細胞死の形態の1つで、細胞が自発的に死に至ることをいいます。プログラムされた細胞死とも呼ばれます。
ネクローシス

遺伝子変異 (gene mutation)
遺伝子は、アデニン、シトシン、グアニン、チミンとよばれる4種の化学物質(ヌクレオチド)によって構成されており、これらのヌクレオチドの順序が遺伝上の情報となります。遺伝子変異とは、このヌクレオチドの一部の配列が何らかの原因で変化したり失われたりすることです。遺伝子変異が生じると、その遺伝子の働きが正常に比べて著しく高まったり(機能獲得型変異)、失われたりします(機能喪失型変異)。GISTの多くは、c‐kit遺伝子ないしはPDGFRα遺伝子の機能獲得型変異が原因となっています。

イマチニブ (Imatinib)
腫瘍細胞の増殖過程における指令系統を分子レベルでブロックする分子標的治療薬と呼ばれるお薬のひとつです。イマチニブは、チロシンキナーゼを分子標的とし、その活性を阻害することにより、KITを発現している消化管間質腫瘍(GIST)細胞の増殖を抑える作用、また、慢性骨髄性白血病(CML)の白血病細胞の増殖を抑える作用があります。もともとはCMLの治療薬として開発されましたが、2000年3月にGISTの患者さんにも効果のあることが報告され、その後の大規模な臨床試験でGISTへの有効性が実証されました。

イマチニブ耐性
イマチニブ治療に対して抵抗性を示すことです。イマチニブ治療にもかかわらず、腫瘍切除部位に新たに腫瘍が生じたり、他臓器に転移したり、病勢コントロールされていた腫瘍が再び増悪することで、治療当初(治療開始後3ヵ月以内)からイマチニブへの不応答性を示す一次耐性と、治療にいったん反応した後に増悪に転じる二次耐性があります。

エクソン (exon)
遺伝子のうち蛋白質の構成成分であるアミノ酸配列の遺伝情報を持っている部分のことです。エクソンは、イントロンと呼ばれる遺伝情報を持たない部分にはさまれるかたちで配列しています。GISTの場合、c‐kit遺伝子の突然変異がおもにエクソン9、11、13、17で、PDGFR α遺伝子の突然変異はおもにエクソン12、18で起こっていることがわかっています。

カハール介在細胞 (Interstitial cells of Cajal; ICCs)
消化管に広く分布する小細胞で,局在の異なる3つのタイプに分類されます。消化管運動のリズムを作り出したり、調節したりする細胞と考えられています。GISTは、このカハール介在細胞が異常な増殖を起こす腫瘍と考えられています。

グリベック (Glivec,Gleevec)
イマチニブの日本での製品名です。なお、英語名のGleevecは、アメリカでのみ用いられている表記です。

血液毒性 (hematotoxicity)
赤血球や白血球、あるいは血小板を減少させる、薬の副作用をいいます。他の抗がん剤治療に比べて、イマチニブはこの血液毒性の頻度が少ないことも特長です。

サイトカイン (Cytokine)
細胞から分泌される蛋白質の一種で、特定の細胞に対し情報を伝える役目をもっています。サイトカインは現在、数百種類が発見されており、体内の免疫や生体防御あるいは炎症やアレルギーなどに直接的・間接的に関与していることが知られています。同じように細胞間の情報を伝達する分子としてホルモンが知られていますが、特定の産生臓器をもち、血流を介して遠くの臓器の細胞に働きかけるという点でサイトカインとは異なります。

サルベージ切除
悪性腫瘍に対する化学療法や放射線治療の効果が十分でないとき、後から摘出・切除することです。

腫瘍細胞分裂像数 (Mitotic Count)
顕微鏡でみた腫瘍の増殖能の指標のことです。悪性度を評価する際、一定の単位面積中にある核分裂中の腫瘍細胞数を計測します。増殖が速いと核分裂の頻度も高く、核分裂を示す細胞も多く認められます。GISTの予後因子の1つとして有用性が確認されており、腫瘍の大きさとともに再発リスクを評価する重要な指標となっています。

受容体型チロシンキナーゼ (receptor tyrosine kinase)
受容体型チロシンキナーゼは、細胞膜を貫通するかたちで存在する蛋白で、細胞外の物質(リガンド)が結合することにより、細胞内にシグナルを伝達させます。GISTの発症に関わるKITPDGFRも受容体型チロシンキナーゼです。
チロシンキナーゼ

腫瘍マーカー(tumor marker)
腫瘍が発生したときに、血液中に増える特異物質の総称です。がん再発の診断や進行した腫瘍の治療効果判定に使われたりします。

消化管間質腫瘍
GIST

スニチニブ (Sunitinib)
腫瘍細胞の増殖過程における指令系統を分子レベルでブロックする分子標的治療薬と呼ばれるお薬のひとつです。スニチニブは、イマチニブによる治療で抵抗性を示した患者さんに使用され、血管新生に関与する血管内皮細胞増殖因子(VEGF)受容体や腫瘍の増殖に関与する血小板由来増殖因子(PDGF)受容体など複数の受容体をブロックし、腫瘍の成長を抑える効果が示唆されています。

生検 (biopsy)
病変部の組織の一部を採取して、顕微鏡や化学的検査などで調べることをいいます。GISTでは診断を確定するために実施します。

生存期間中央値(median survival time;MST)
ある治療を行ったときに、その治療を受けた患者さんの半分が亡くなるまでの期間をいいます。例えば、99人の患者さんが同じ治療を受けた場合、50人目の患者さんが亡くなるまでの期間が生存期間中央値となります。現在ではこの生存期間中央値をもって、患者さんの平均生存期間とみなしています。
中央値

セカンドオピニオン(second opinion)
患者さんやそのご家族が、主治医以外の第三者的立場にある医師から、自分やご家族の病気の診断・治療に関するアドバイスを受けることです。GISTの治療では、転移がない腫瘍では手術が、転移がある腫瘍や再発ではイマチニブによる薬物治療が基本と考えられています。セカンドオピニオンを希望する場合には、主治医の先生にお申し出ください。なお、当研究会ウェブサイトでもGISTに関する簡単なご質問を受け付けています。

奏効率(ORR;Objective Response Rate)
抗がん剤などの治療で効果があった患者さんの割合をいいます。通常、画像上で明瞭な縮小が確認できるCR(完全奏効)、PR(部分奏効)の合計で表されます。ただし、イマチニブによるGISTの治療では、CT画像上で腫瘍の増大がみられないSD(安定)も効果を発揮したと考えられるため、CR、PRにSDを加えた病勢コントロール率がよく用いられます。

耐性
治療により長期間薬物を反復投与するうちに、その薬効が減弱し、最終的にはほとんど効かなくなることをいいます。

中央値(median)
数値全体を大小の順に並べた場合の真ん中の数値をいいます。平均値と比べて、極端な数値の影響が少ないという利点があります。

チロシンキナーゼ (tyrosine kinase)
蛋白質をリン酸化する酵素「プロテインキナーゼ」のひとつで、チロシンというアミノ酸にリン酸を付加する機能を持っています。GISTの発症の要因となっているKITPDGFRもチロシンキナーゼの機能を持っています。
受容体型チロシンキナーゼ

転移 (metastasis)
腫瘍細胞が血管やリンパ管を通じて、腫瘍の発生した部位から離れた他の部位に運ばれて新しい病巣を作ることをいいます。血管を介するものを血行性転移、リンパ管を介するものをリンパ行性転移といいます。GISTではリンパ行性転移は少なく、転移の90%以上は肝と腹膜への転移です。

動脈塞栓術(transarterial embolization;TAE)
腫瘍は、血流から栄養を取り込んで増大していきます。動脈塞栓術は、腫瘍を支配している血管に、血管を閉塞させる物質を選択的に注入することで血流を遮断し、腫瘍を壊死させる治療法です。GISTでは肝転移に対して行われることがあります。

肉腫 (sarcoma)
上皮以外の組織、つまり、骨、軟骨、血管、リンパ腺、筋肉などの細胞から発生した悪性腫瘍のことをいいます。骨肉腫、軟骨肉腫、血管肉腫、悪性リンパ腫、平滑筋肉腫などが肉腫にあたり、GISTもこれに含まれます。

二重盲検法(double blind test)
治験薬の薬効を客観的に調べる臨床試験の方法。効果を判定しようとする薬と偽薬(プラセボ)または対照薬を、被検者にも医師にもいずれの薬であるかを伏せたまま使用させてテストすること。
臨床試験 →プラセボ

忍容性(tolerability)
薬物によって生じることが明白な有害作用(副作用)が、被験者にとってどれだけ耐え得るかの程度を示したもの。薬物の服用によって、有害作用(副作用)が発生したとしても被験者が十分耐えられる程度であれば、「忍容性が高い(良い)薬物」となり、逆に耐えられない程のひどい有害作用が発生する場合は、「忍容性が低い薬物」となる。

ネオアジュバント療法(neoadjuvant therapy)
手術前に抗がん剤治療を行い、病巣を縮小させてから腫瘍切除を行う治療です。大切な臓器を取らずに済ませたり、浸潤の著しい腫瘍における外科治療の成績を上げる目的で行います。術前補助療法ともいいます。
アジュバント療法

粘膜下腫瘍 (submucosal tumor;SMT)
通常のがんやポリープとは異なり、粘膜の下の層にできる腫瘤のことです。正常の粘膜をかぶっており、診断が難しいことから分けて呼ばれます。良性のものを多く含んでいますが、まれに悪性の腫瘍のこともあります。粘膜下腫瘍には、GIST、平滑筋腫、神経鞘腫、カルチノイド腫瘍などがありますが、なかでも最も多いのがGISTです。

ネクローシス(necrosis)
細胞の内部に損傷が起こり、修復不可能になると細胞は死にはじめます。そして、細胞そのものが膨張して崩壊し、周囲に炎症などを起こします。これをネクローシス(壊死)といいます。

ハザード比(HR;Hazard Ratio)
標準となるグループで、ある事象が起こる危険性を1として、比較したいもう一方のグループでどのくらいの危険性になるかを表した数字です。抗がん剤治療による再発率低下の評価などにもちいます。

皮膚障害(skin disorder)
薬の副作用として、皮膚に現れる障害のことです。GISTのイマチニブによる治療では、治療開始4週以内に多形紅斑や丘疹と呼ばれる皮膚症状が出現することがあります。イマチニブによる皮膚障害のほとんどは対処可能であり、ステロイドの使用などで改善します。

病勢コントロール
奏効率

腹腔鏡手術 (laparoscopic surgery)
腹腔鏡という内視鏡の一種でおなかの中の様子を見ながら鉗子という細い特殊な器具を使って行う手術です。開腹する必要がなく、お腹に1~2 cm程度の小さな穴を3ヵ所ほど開けて手術を行うので、術後の回復が早いことが特長です。GISTの手術では、主に2cm未満の小さな腫瘍に用いられます。

腹膜播種 (peritoneal dissemination)
がん細胞が胃などの臓器表面からこぼれ落ち、腹壁や横隔膜、腸管・腸間膜の表面などに接着・増殖し、目に見える大きさに成長したものです。手術中にがん細胞の混じった血液やリンパ液が腹腔内にこぼれ落ちることによって再発がんとなります。GISTでは、偽被膜を損傷して腫瘍破裂を起こした場合に、腹膜播種が起こる場合があります。

浮腫 (edema)
いわゆる「むくみ」のことで、細胞間質に体液が過剰に貯留する状態をいいます。GISTイマチニブによる治療でも、しばしば発生します。

プラセボ(placebo)
薬の成分が入っていない薬理作用のない偽薬のことをいいます。臨床試験などで薬の効きめや安全性などのデータを比較する際に用いられます。
臨床試験

分子標的治療薬(molecular targeting drug)
悪性腫瘍の原因となる増殖因子や血管新生因子、転移関連因子といった遺伝子や蛋白質などの分子に的を絞り、その働きを止めて、がんの進行を抑止させるお薬です。
従来の治療薬に比べて、正常な細胞へのダメージが少なく、重篤な副作用の発現が比較的少ないという特長があります。イマチニブは、GISTの原因であるKITPDGFRを標的とした代表的な分子標的治療薬です。

無再発生存期間(RFS; recurrence-free survival)
腫瘍の再発を認めない状態で患者さんが生存している期間をいいます。なお、無再発生存率は、治療後のある時点において、再発がなく生存している患者さんの割合をいいます。

無増悪期間 (TTP; time to progression)
腫瘍の増殖が進行するまでの期間のことです。

無増悪生存期間(PFS; progression-free survival)
病勢の進行が見られない状態で患者さんが生存している期間をいいます。

無力症(asthenia)
衰弱することをいいます。全身倦怠感、疲労感を含む場合もあります。

メシル酸イマチニブ (Imatinib mesilate)
イマチニブ

免疫療法(immunotherapy)
免疫担当細胞、サイトカイン、抗体などを用いて、人間がもともと持っている免疫機能を高めて病気を治療する方法です。GISTには、効果の確認されている免疫療法はありません。

免疫組織化学(immunohistochemistry)
抗原抗体反応の特異性を利用して,特定のタンパク質などを抗体を用いて検査する方法。GISTでは、診断を確定する際に実施されます。

予後因子 (prognostic factor)
長期の生存(予後)に影響を及ぼす要因のことで、手術後の治療の必要性や治療方針を決めるときの重要な指標となります。GISTの場合、信頼度の高い予後因子として、腫瘍径、腫瘍細胞分裂像数、周囲臓器浸潤、血行性転移、腹膜播種、腫瘍破裂、不完全切除などが挙げられます。

リガンド(ligand)
細胞内にシグナルを伝えるホルモンや細胞,増殖因子といった細胞外の分子の総称で,細胞膜表面上に存在する受容体に結合することで情報を伝達します。KIT蛋白に対するリガンドはSCF(stem cell factor)というサイトカインです。

臨床試験
医薬品や新治療法等の安全性と有効性を、患者や健康人に投与することにより確認する試験です。臨床試験のうち、医薬品の承認申請に使用することを目的とした臨床試験が治験であり、それ以外の臨床試験は、非治験すなわち製造販売後臨床試験となります。データの信頼性の確保と被験者の人権を守るために、厚生労働省が定めた「GCP」及び「GPMSP」に基いて、科学的かつ倫理的に実施されます。被験者は、試験内容、それから得られる利益、副作用発現リスクなどについて、十分な説明を受け、同意すること(インフォームド・コンセント)が必要です。

レゴラフェニブ
腫瘍細胞の増殖過程における指令系統を分子レベルでブロックする分子標的治療薬と呼ばれるお薬のひとつです。レゴラフェニブは、イマチニブ、スニチニブによる治療で抵抗性を示した患者さんや、副作用等により治療の継続が困難な患者さんに使用され、血管新生や、腫瘍形成に関与するさまざまなキナーゼの働きを阻害し、腫瘍の成長を抑える効果が示されています。