GIST診断・治療アップデート(2011年)

GISTにおける遺伝子変異とその臨床的意義

兵庫医科大学 病院病理
廣田 誠一 先生

GISTにみられる c-kit遺伝子とPDGFRA遺伝子の機能獲得性突然変異

ほとんどのGISTにはc-kit遺伝子または血小板由来増殖因子受容体α (PDGFRA)遺伝子の機能獲得性突然変異がみられる。散発性GIST全体でみた場合、c-kit遺伝子の変異は80~90%にみられ、エクソン11の変異が70~80%と最も多く、そのタイプは欠失や点突然変異、重複など多彩である1)図1)。細胞外領域 (エクソン9) の変異は約10%で、基本的にコドン502番503番の2アミノ酸の重複である (図1)。チロシンキナーゼ領域Ⅰ (エクソン13) やチロシンキナーゼ領域Ⅱ (エクソン17) の変異は各々1%前後と稀で、基本的にコドン642番の点突然変異、コドン822番の点突然変異である(図1)。
c-kit遺伝子の変異がみられない散発性GISTの多くにはc-kit遺伝子との類似性の高いPDGFRA遺伝子に機能獲得性突然変異がみられる2,3)。c-kit遺伝子のエクソン11、 エクソン13、 エクソン17に相当するエクソン12、 エクソン14、エクソン18に変異が存在するが(図1)、c-kit遺伝子の場合と異なり、大部分の変異はエクソン18に存在し(全散発性GISTの約10%)、エクソン12には3%以下、エクソン14には1%以下である(図1)。エクソン18の変異としてはAsp842Val変異が最も多く、その他多彩な変異型もみられる。なお、基本的にc-kit遺伝子とPDGFRA遺伝子の両方に変異が存在するGISTはない。
GISTにおける遺伝子変異の頻度は報告者によって異なっているが、これには遺伝子変異の検索方法の違いやGISTの病理診断の妥当性が影響している可能性がある。新鮮凍結組織からのcDNA検索はパラフィン切片からのゲノムDNA検索に比し、より精度が高いと考えられる。また病理診断の正確性が低いと、遺伝子変異の検出頻度も低くなる。
c-kit遺伝子もしくはPDGFRA遺伝子の生殖細胞レベルでの突然変異を原因とする多発性GIST家系が存在し、これまでに約20家系が報告されている4,5)図2)。変異部位は基本的には散発性GISTと同様で、c-kit遺伝子ではエクソン11での変異が最も多く、 エクソン13の例が3家系、エクソン17の例が3家系にみられている(図2)。PDGFRA遺伝子の変異例はエクソン12に2家系、エクソン18に1家系の報告がある(図2)。これらの家族性多発性GIST患者には基本的に多発GISTの前駆病変と考えられるカハールの介在細胞(ICC)の過形成像が観察され、随伴症状として手指・外陰部等の色素沈着やマスト細胞性腫瘍の発生、嚥下困難がみられることがある。

図1 散発性GISTにおけるc-kit遺伝子およびPDGFRA遺伝子の変異部位とその頻度
図1 散発性GISTにおけるc-kit遺伝子およびPDGFRA遺伝子の変異部位とその頻度
EC:細胞外領域、 TM:細胞膜貫通領域、JM:傍細胞膜領域、TKI:チロシンキナーゼ領域I、KI:キナーゼインサート、TKII:チロシンキナーゼ領域II
図1 散発性GISTにおけるc-kit遺伝子およびPDGFRA遺伝子の変異部位とその頻度
図2 多発性GIST家系にみられるc-kit遺伝子およびPDGFRA遺伝子変異のタイプとその報告家系数
EC:細胞外領域、 TM:細胞膜貫通領域、JM:傍細胞膜領域、TKI:チロシンキナーゼ領域I、KI:キナーゼインサート、TKII:チロシンキナーゼ領域II/figcaption>

c-kit遺伝子にもPDGFRA遺伝子にも変異をもたない特殊なGIST

30歳以降のほとんどのGISTにはc-kit遺伝子かPDGFRA遺伝子かのどちらかに変異がみられる。どちらの遺伝子にも変異がみられない稀なGISTの代表例として、神経線維腫症(NF1)の患者さんにみられるGISTがある。十二指腸以下の小腸に多発することが多く、基本的にc-kit遺伝子にもPDGFRA遺伝子にも変異はない。Carney triadと呼ばれる胃のGIST(類上皮型で多発傾向、予後良好の特徴あり)、肺の過誤腫(気管支軟骨腫)および副腎外paragangliomaの3腫瘍のうち2つ以上の病変をもつ若年女性好発の非遺伝性の病態が存在するが、このGISTにもc-kit遺伝子・PDGFRA遺伝子に変異は検出されない。また遺伝性 (常染色体優性) に若年者にGISTとparagangliomaの発生をみるCarney-Stratakis syndromeという病態があるが、これはsuccinate dehydrogenase B、 CまたはDの生殖系列での遺伝子異常により発生することが明らかにされており、c-kit遺伝子にもPDGFRA遺伝子にも変異はみられない。さらに、上記以外の状況の30歳以下の若年者に発生したGIST でしばしばc-kit遺伝子にもPDGFRA遺伝子にも変異のないものが経験され、このような症例をいわゆる若年GISTと呼んでいる。
上記のように、通常のGISTのほとんどにc-kit遺伝子やPDGFRA遺伝子の変異がみられ、逆にGISTとの鑑別が必要な疾患でそれらの変異を見ることはほとんどないため、遺伝子変異検索はGISTの確定診断に有用となる。c-kit遺伝子にもPDGFRA遺伝子にも変異を認めなければ、特殊な状況下以外ではGISTでない可能性が極めて高く、組織像や免疫組織化学の結果の再検討が必要である。
c-kit遺伝子にもPDGFRA遺伝子にも変異のないGISTにBRAF遺伝子の変異が報告されている。BRAF遺伝子はセリンスレオニンキナーゼをコードし、悪性黒色腫・甲状腺乳頭癌などで変異がみられ、腫瘍の原因として重要視されている。c-kit遺伝子およびPDGFRA遺伝子に変異をもたないGISTで約7~13%に変異があるとされ、GIST発生の原因である可能性が議論されている6)

GISTにおける遺伝子変異と臨床病理学的パラメーターの関係

GISTの遺伝子変異部位と患者の予後や分子標的治療への効果などとの関係が報告されている。まず、c-kit遺伝子のエクソン11の変異においては、C 末端側の重複型突然変異をもつGISTは高齢の女性の胃発生であることが多く、予後は良好とされる。 c-kit遺伝子のエクソン11の欠失型変異をもつGISTは、一塩基置換型変異をもつGISTが予後良好なのに対して予後不良とされ、特にコドン557番と558番の欠失が関与するタイプは予後が悪いといわれている。c-kit遺伝子のエクソン9の突然変異をもつGISTについては、小腸発生がほとんどで、巨大腫瘍として発見されることが多く、予後はやや不良とされている。一方、PDGFRA遺伝子変異をもつGISTについては一般に再発が少なく、予後良好とされる。変異部位ではないが、wild typeのc-kit遺伝子が検出されないhomozygous (もしくはhemizygous) 変異を示すGISTは全体に転移率が高く、予後はやや不良とされる。
遺伝子変異の部位と分子標的薬イマチニブの効果の関係については、c-kit遺伝子のエクソン11の変異は一般的にイマチニブに感受性が高く、c-kit遺伝子のエクソン9の変異ではイマチニブの感受性がやや悪いことが報告されている。また、c-kit遺伝子にもPDGFRA遺伝子にも変異をもたないGISTでは、イマチニブの効果が低く、PDGFRA遺伝子のエクソン18のAsp842Val変異をもつGISTはイマチニブの効果は期待できないとされる。

イマチニブ耐性GISTにおける遺伝子変異

イマチニブ耐性には、最初から効果のみられない一次耐性といったん効果を示した後に増悪に転ずる二次耐性がある。上述のように、PDGFRA遺伝子のエクソン18のAsp842Val変異をもつGISTはイマチニブ一次耐性となり、c-kit遺伝子のエクソン9変異をもつGISTのなかにも一次耐性のパターンを示すものがある。一方、二次耐性を示すGISTにはもともとのc-kit遺伝子変異(一次変異)に加えて耐性の原因となるc-kit遺伝子変異(二次変異)がみられることが多い7)。二次変異は基本的にエクソン13、 エクソン14、 エクソン17、 エクソン18の点突然変異であり、エクソン13、 エクソン14の変異はコドン654番、コドン670番の点突然変異とほぼ一定しているが、エクソン17の変異はさまざまである(図3)。 エクソン13の二次変異部位は一次変異でみられるエクソン13の部位とは異なる。二次耐性GISTのうちセカンドラインの分子標的薬スニチニブの効果を期待できるのがエクソン13、 エクソン14に二次変異をもつ症例であり、二次耐性GISTのスニチニブ効果予測にも遺伝子検索が有用となる。

図3 イマチニブ耐性GISTにみられるc-kit遺伝子の二次変異のタイプとその頻度
図3 イマチニブ耐性GISTにみられるc-kit遺伝子の二次変異のタイプとその頻度
EC:細胞外領域、 TM:細胞膜貫通領域、JM:傍細胞膜領域、TKI:チロシンキナーゼ領域I、KI:キナーゼインサート、TKII:チロシンキナーゼ領域II

文献

  • 1)Hirota S et al: Gain-of-function mutations of c-kit in human gastrointestinal stromal tumors. Science 273: 577-580, 1998
  • 2)Hirota S et al: Gain-of-function mutations of platelet-derived growth factor receptor alpha gene in gastrointestinal stromal tumors. Gastroenterology 125: 660-667, 2003
  • 3)Heinrich MC et al: PDGFRA activating mutations in gastrointestinal stromal tumors. Science 299: 708-710, 2003
  • 4)Nishida T et al: Familial gastrointestinal stromal tumours with germline mutation of the KIT gene. Nat Genet 19: 323-324, l998
  • 5)Hirota S et al: Familial gastrointestinal stromal tumors associated with dysphagia and novel type germline mutation of KIT gene. Gastroenterology 122: 1493-1499, 2002
  • 6)Agaimy A et al: V600E BRAF mutations are alternative early molecular events in a subset of KIT/PDGFRA wild-type gastrointestinal stromal tumours. J Clin Pathol 62: 613-616, 2009
  • 7)Nishida T et al: Secondary mutations in the kinase domain of the KIT gene are predominant in imatinib-resistant gastrointestinal stromal tumor. Cancer Sci 99: 799-804, 2008