GIST診断・治療アップデート(2011年)

ネオアジュバント療法

大阪大学大学院医学系研究科 消化器外科学
黒川 幸典 先生

初発GISTの第一選択は、原則外科的完全切除であるが、腫瘍径が大きく浸潤がみられるGISTでは、イマチニブを用いた術前補助化学療法(ネオアジュバント療法)が考慮される。ネオアジュバント療法は、現在、臨床研究段階の治療として扱われており、GIST診療ガイドラインでは推奨グレードC(行うよう勧めるだけの根拠が明確でない)とされている。ここでは、ネオアジュバント療法の考え方・治療の実際について述べる。

ネオアジュバント療法の適応

ネオアジュバント療法の意義が最も期待される対象としては、腫瘍サイズが大きく完全切除が困難なmarginally resectable GISTである。すなわち、拡大手術により切除は可能であるが術後合併症リスクが大きいと考えられる場合や、必ずしもR0手術(完全切除)になるとは限らない局所進行GISTの患者さんが対象となる(図1)。術前イマチニブ治療で腫瘍が縮小することにより、被膜を損傷することなく切除できる可能性が高まることから、完全切除率の向上や術後合併症リスクの低下が期待できる。また、腫瘍縮小により拡大手術を回避できれば、患者さんの負担も軽減しQOLの観点からもメリットは大きい。
一方、遺伝子変異のない野生型やPDGFRA遺伝子変異を有するGISTは、イマチニブによる治療効果が低いため、ネオアジュバント療法のメリットは小さいと考えられる。

図1 ネオアジュバント療法のフローチャート(GIST診療ガイドライン)
  • a) 術前合併症を持つ切除可能例または多臓器合併切除を要する症例。
  • b) ベースラインCT(FDG-PET)を実施。
  • c) 術前補助療法の効果および安全性は確認されていない。
  • d) CRなどで腫瘍が切除不要なレベルまで縮小した場合はイマチニブ投与し経過観察。
  • e) CT:造影効果消失,MRI:腫瘍血流低下ないし消失,FDG-PET:取り込み低下ないし消失。
  • f) 完全切除可能な原発GISTの治療選択は外科切除である。切除後,病理組織診断の再確認を行い,他の癌や肉腫の場合は各ガイドラインに応じた治療とフォローを実施。
  • g) 他の併存症のため手術不能の場合,インフォームドコンセントが得られない場合など。
  • h) 他の薬剤の国内臨床試験に参加。
図1 ネオアジュバント療法のフローチャート(GIST診療ガイドライン)
日本癌治療学会、日本胃癌学会、GIST研究会編、GIST診療ガイドライン第2版補訂版、2010

術前イマチニブの投与期間と効果判定

切除不能・転移性GISTの患者さんを対象にイマチニブの長期投与の有用性を検討した大規模臨床試験(B2222試験)では、イマチニブを投与してから奏効するまでの期間(中央値)は約3ヵ月、また75%の患者さんが奏効するまでの期間は約6ヵ月と報告されている1)。したがって、イマチニブの術前投与期間は6ヵ月がひとつの目安と考えられ、イマチニブの腫瘍縮小効果が最大の時点での手術を実施することが理想的である。
また、術前イマチニブ治療では、イマチニブ治療中に病変の進行をきたした場合には、手術時期を逸する可能性もあることから、治療効果の判定が重要である。治療効果の判定は、治療開始後1、3、6ヵ月に実施するなど、投与初期にはより細かくフォローすることが望ましい。
効果判定の指標として、RECISTあるいはChoi基準のどちらを採用すべきかについては、ネオアジュバント療法の目的により異なる。臓器温存を目的とした場合には、RECISTがより適切かもしれないが、生存期間の延長を目的とするのであれば、イマチニブの治療効果をより的確に判定できると考えられるChoi基準のほうがふさわしいであろう(参照:CTの診断解説)。
*Choi基準:イマチニブ投与により腫瘍径が10%以上縮小あるいは腫瘍密度(HU)が15%以上低下した場合に奏効と判定。

周術期の管理と術後のイマチニブ投与

手術前の休薬期間は、イマチニブの特性からもできるだけ短いほうが望ましく、有害事象がみられなければ手術前日までの投与も可能と考えられる。ただし、患者さんによっては白血球減少・好中球減少を認める場合もあり、副作用が懸念される場合には、術前1週間前から休薬する。手術は一般的な外科手術に準じ、切除マージンも通常のGIST手術と同様に行う。
ネオアジュバント療法が考慮される患者さんは比較的腫瘍径が大きく、Fletcher、Miettinenなどのリスク分類で高リスクに該当する場合が多く、再発リスクが高いと推測されることから、術後も基本的にイマチニブ治療を実施することが望ましい。なお、術後のイマチニブ投与の再開は、手術の程度や発生部位、合併症の有無により異なるが、食事摂取が安定して行える状態から再開する。日数でいえば術後7~10日が目安となる。

海外のガイドラインの記載

本邦のガイドラインでは、ネオアジュバント療法の推奨グレードはC(行うよう勧めるだけの根拠が明確でない)であり、臨床試験段階の治療として扱われているが、米国NCCN、欧州ESMO両ガイドラインは、ネオアジュバント療法の実施については全般的に積極的である。
NCCNガイドライン2)では、イマチニブによる腫瘍縮小により手術に伴う合併症リスクが減少すると判断されれば、ネオアジュバント療法を考慮すべき(preoperative treatment with imatinib should be considered)と表記されている。イマチニブ投与開始後2~4週間の早期にPETによるイマチニブ反応性の確認を行った上で、効果が認められた患者さんに対して3~6ヵ月の投与期間中に手術が考慮されるとしている。推奨グレードは2A(the recommendation is based on lower level evidence and there is uniform NCCN consensus)である。
一方、ESMOガイドライン3)はNCCNと同様に、対象は完全切除が望めない患者さん、多臓器合併切除が必要な患者さんあるいは安全な手術が見込めない患者さんとしている。イマチニブ投与期間は6~12ヵ月とNCCNよりは長めに設定されている。
日米欧のいずれのガイドラインも、GISTに対するネオアジュバント療法のエビデンスは不十分としながらも、有力な治療選択肢であることを認めている。治療目的はいずれも完全切除率の向上や手術の安全性等に置かれている点は共通である。なお、それぞれのガイドラインではネオアジュバント療法の恩恵が得られやすい患者さん像や大まかな治療方針は示されているものの、適応基準や標準化された手順は明示されておらず、今後の臨床試験による検証が必要である。

文献

  • 1)Blanke CD et al: Long-term results from a randomized phase II trial of standard- versus higher-dose imatinib mesylate for patients with unresectable or metastatic gastrointestinal stromal tumors expressing KIT. J Clin Oncol 26: 620-625, 2008
  • 2)Demetri GD et al: NCCN Task Force report: update on the management of patients with gastrointestinal stromal tumors. J Natl Compr Canc Netw 8 Suppl 2: S1-S41, 2010
  • 3)Casali PG et al: Gastrointestinal stromal tumours: ESMO Clinical Practice Guidelines for diagnosis, treatment and follow-up. Ann Oncol 21 suppl 5: v98-v102, 2010