診断・治療のトレンド

GISTの治療戦略

新潟県厚生農業共同組合連合会 三条総合病院 神田 達夫 先生

GIST治療では外科切除が最優先

GISTの治療では、基本的には手術が最も有効ですので、初発の場合の第一選択は外科手術による切除になります。このことは、米国(NCCN)、欧州(ESMO)の各ガイドラインにも明記されており、世界的にコンセンサスが得られています。
実際には、内視鏡検査や消化管造影でGISTを疑う粘膜下腫瘍が発見された場合、腫瘍の大きさやリスクなどによって経過観察をするか、手術をするかが判断されます。腫瘍の大きさが2cm未満で、悪性所見がない場合は、経過観察(年2回)を行ってよいと考えられています。2~5cmの場合は、切除範囲が少なく、手術による臓器機能喪失が抑えられる場合には手術が勧められますが、患者さんの意思が最も尊重されます。5cmを超える場合はリスクが高いと判断されますので、原則として手術をお勧めします。
GIST治療では外科切除が最優先
リスクの評価には腫瘍径のほか、細胞分裂が活発かどうかなどが考慮されます。
また切除不能の場合は、薬物療法が考慮されます。

手術後の経過観察

外科手術によって、完全切除が得られれば、その後は経過観察を行います。その頻度は、切除したGISTのリスク(腫瘍径や細胞分裂の活発さ)によって異なり、リスクが低い場合は年1、2回、リスクが高い場合は年に数回と考えられています。経過観察を続ける期間としては、およそ10年間は継続し、腫瘍が再発していないか、肝臓や腹膜などへの転移がないかを確認します。経過観察では、CTなどによる検査を行う場合が一般的です。
手術後の経過観察
現在のところイマチニブによる術前・術後の補助療法は確立されていません。

外科切除ができなかった場合はお薬による治療を実施

先に述べたように、GISTの治療では、外科切除が最も優先されます。その理由は、外科切除により、多くの場合が「完全に治癒」し、再発率もわが国の場合低く、治療効果が高いからです。
しかし、以下の理由で残念ながら完全な切除ができないこともあります。

  • 腫瘍が大きすぎるため取りきれない。
  • 転移や播種が多数みられ、取りきれない。
  • 実際手術を行ったが、浸潤などのため取りきれなかった。
  • 手術の侵襲度が高い

そのような場合は、遺伝子を標的とした薬剤(イマチニブ)による治療が行われます。お薬による治療については、別項目で詳細に解説しますが、お薬による治療では全ての腫瘍細胞が完全に死滅する可能性は非常に低いと考えられますので、あくまで初発のGISTの治療原則は外科的完全切除です。
また、外科切除の後に、再発を防ぐ目的で、予防的にイマチニブを投与する方法(アジュバント治療)や、初発のGISTで、手術前にイマチニブを投与して腫瘍を縮小させてから切除する方法(ネオアジュバント治療)の効果については、現時点では国内においてエビデンスが確立していません。

再発した場合には、再手術または薬物療法を実施

GISTでは、約10~50%の頻度で再発が起こることがわかっています。GISTが再発した場合、局所の再発などでは再手術が行われることがあります。また、肝転移の場合も、肝切除により安全に転移巣が切除可能な場合には切除を行います。
しかし、再発における外科手術の治療効果は必ずしも高くないことから、薬剤(イマチニブ)による治療も積極的に考慮します。特に再手術によっても完全に切除できない場合や、再発までの期間が短い場合などは薬物療法を選択します。
再発において、薬物療法を選択するか、手術を実施するかは、再発の状況によって個々に異なりますので、担当の医師に十分にご相談ください。
再発した場合には、再手術または薬物療法を実施

腹腔鏡による治療の効果

日本では、消化管粘膜下腫瘍の治療において、5cm以下のGISTに対して腹腔鏡手術が実施されることがあります。その最大のメリットは、開腹手術に比べて侵襲性が低いということです。一方、欧米ではあまり腹腔鏡手術は推奨されていません。その理由は、GISTは柔らかい組織なので、乱暴に扱うと腫瘍の薄い被膜が破裂して、腫瘍細胞が撒き散らされ転移を生じる可能性があるためです。しかし、日本では、腹腔鏡手術の技術が進歩していますし、手術に慣れた外科医であればそれほど困難なことではないことから、腹腔鏡手術でGISTの切除を行う施設も増えています。
腹腔鏡による治療の効果