診断・治療のトレンド

GISTの薬物療法

国立がん研究センター東病院 消化管内科 土井 俊彦 先生

イマチニブは、もともと慢性骨髄性白血病(CML)の治療薬として開発された分子標的治療薬で、その後、GISTでも効果があることが認められ、わが国でも2003年にGISTにおける適応が承認されました。特に、これまで手術以外の治療法の効果がほとんどなかった切除不能、再発GIST症例において、イマチニブによって初めて予後を改善する治療法が確立されたという点で、極めて重要な発見といえます。

GISTに対するイマチニブの効果が国内外で確認

GISTに対するイマチニブの効果については、国内、海外で試験が実施されてきました。国内の臨床試験では、切除不能または転移性のGIST患者さんにイマチニブを1日1回400mg投与したところ、治療開始6ヵ月後において、腫瘍の消失(完全寛解:CR)は得られていませんでしたが、腫瘍が50%以上縮小したPRと、腫瘍の大きさが変化しなかったSDを加えた「病勢コントロール」は、一応、100%に達しました。

海外の臨床試験においても、より症例数の多い試験での良好な成績が報告されています。ただし、病勢コントロール(PR+CR)は100%にはなっておりません。ですから、イマチニブは極めて有効な薬剤ですが、必ずしもすべての患者さんに効果が現れるわけではありませんので、その点はご留意ください。

国内でのGISTの臨床試験
米国でのGISTの臨床試験
  • Complete Response(CR) : 腫瘍が完全に消失した状態
  • Partial Response(PR): 腫瘍の大きさの和が50%以上減少した状態
  • Stable Disease(SD): CR、PR、PD及びUNKに該当しない状態(腫瘍の大きさ(面積)が変化しない状態)
  • Progressive Disease(PD):腫瘍の大きさの和が50%以上増加又は10cm2増加した状態、あるいは新病変が出現した状態
  • Unknown(UNK): 画像撮影は実施されたが、一部の病変部位の画像撮影を行っていない場合

イマチニブの服用方法

多くの臨床試験の結果から、イマチニブのGISTにおける国内承認用法・用量は、1日1回400mgの食後の経口投与となりました。慢性骨髄性白血病(CML)の慢性期では1日1回600mgまで認められていますが、GISTでは600mgは保険承認範囲で認められていません。なお用法・用量に関連する使用上の注意として、消化管刺激作用を最低限に抑えるため、食後に多めの水で服用することがすすめられます。

イマチニブは単剤で十分高い抗腫瘍効果が期待できること、また、輸液などの処理を必要としないことから、全身状態が比較的良ければ外来で十分治療が可能です。その治療の簡便さ・容易さがイマチニブの大きな特徴の1つといえます。

一方、イマチニブを1日1回300mg未満の低用量で投与維持することについては、臨床効果のエビデンスがなく、逆に耐性を誘導する可能性も指摘されていますので、安易に行うべきではありません(専門家医師の判断をあおいでください)。

また、術前にイマチニブを服用し腫瘍を小さくしてから手術する術前補助(ネオアジュバント)療法、術後にイマチニブを服用し腫瘍の再発を防止する術後補助(アジュバント)療法におけるイマチニブの使用に関しては、現在、世界各国で臨床試験が進められています。米国では、2008年12月にイマチニブのアジュバント療法が承認されましたが、国内ではまだエビデンスが確立していません。イマチニブの製品添付文書でも「消化管間質腫瘍に対する術前及び術後補助療法における本剤の有効性及び安全性は確立していない」ことが記載されていますので、現時点では保険適応外となります。現時点ではエビデンスが明確になるまで服用は推奨されません。ただし、手術によっても完全に腫瘍が切除されない場合は、「切除不能GIST」に含まれますので、イマチニブの適応になります。

イマチニブの服用方法

イマチニブはGISTの異常分子を標的に治療

GISTの発症メカニズムは、「診断最前線」の項目でも触れられていますが、KIT蛋白という細胞増殖にかかわる細胞膜上の蛋白が、異常な増殖シグナルを伝達し続けるために起こることがわかっています。これに対してイマチニブは、この異常なKIT蛋白に結合して、増殖シグナルを阻害する分子標的治療薬です。異常蛋白を表面に有している細胞のみを標的にするため、GISTに対して高い効果が得られると同時に、副作用は従来の化学療法に比べて少ないと考えられます。

また、PDGFRα という蛋白の異常も、まれにGISTの原因となることがありますが、イマチニブはこの蛋白の異常に対しても、ある程度効果があることがわかっています。その一方で、KITやPDGFRα
に変異を持たないGISTには、イマチニブが効きにくいこともわかってきました。

さらに最近は、KIT蛋白の異常にもいくつかのパターンがあり、エクソン11という部分で変異が起こったGISTに対してはイマチニブの臨床効果が高く、次がエクソン9の変異で、逆にエクソン17の変異に対しては臨床効果が得られにくいことがわかってきています。

イマチニブはGISTの異常分子を標的に治療

イマチニブの効果はどうやって評価する?

イマチニブの治療効果は、投与を開始してから約3カ月~6カ月で現れ始める患者さんが多いです。評価の方法ですが、CT検査画像などから、腫瘍細胞が縮小したり、内部の液状変化が起こったかどうかで判定します。腫瘍の液状化とは、CTによる所見が黒く抜ける状態で観察されます。

また、先ほども触れましたが、GISTの場合、必ずしも腫瘍が縮小していなくても、大きさが不変(SD不変 : stable disease)であれば「病気の進行をコントロールできた」と判断され、そこは他の癌とは大きく異なる点です。実際に海外の臨床試験でも、SD患者の方の生命予後は、CR(完全寛解)またはPR(部分寛解)患者とほぼ同等であることが示されました。

CT画像
写真提供:西田俊朗

イマチニブにも重篤な副作用がある

多くの抗癌剤は、腫瘍細胞だけでなく、正常細胞にも作用するために、強い副作用が起こります。しかし、イマチニブは、異常細胞だけに作用するため、副作用は従来に比べて軽いものです。ただし、それでも重篤な副作用もありますので、十分に注意が必要ですし、専門の医師のもとでの使用が必要です。

まず、まれですが重篤な副作用については、海外で報告されている副作用と大きな差は認められていません。日本人の場合、表のような骨髄抑制や出血、腫瘍出血・消化管穿孔、間質性肺炎、重篤な皮膚症状などが報告されています。これらの副作用が見られた場合は、いったんイマチニブを中止するなどの対処が必要です。

  • 骨髄抑制(汎血球減少、白血球減少、好中球減少、血小板減少、貧血)
  • 出血(脳出血、硬膜下出血、消化管出血)
  • 腫瘍出血、消化管穿孔
  • 肝機能障害、黄疸、肝不全
  • 重篤な体液貯留(胸水、肺水腫、腹水、心膜滲出液、心タンポナーデ、うっ血性心不全)
  • 感染症(肺炎、敗血症)
  • 重篤な腎障害
  • 間質性肺炎、肺線維症
  • 重篤な皮膚症状(皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)、中毒性表皮壊死症(Lyell症候群)、剥脱性皮膚炎等)
  • 心膜炎
  • 脳浮腫、頭蓋内圧上昇
  • 麻痺性イレウス
  • 血栓症、塞栓症

イマチニブでしばしばみられる副作用

一方、イマチニブを服用すると、吐き気・下痢といった、比較的軽症の重篤ではない副作用は、ほぼ100%の患者さんで発生します。そのほか、むくみ、発疹・皮膚炎、貧血、発熱・頭痛、筋肉痛などの副作用もみられますが、いずれも軽~中等度である場合が多いので、必ずしも直ちにイマチニブの投与中止が必要ではなく、減量や対処療法などが考慮されます。専門の医師による判断が必要です。

  • 嘔気(吐き気)、嘔吐、下痢
  • 浮腫(むくみ)
  • 発疹・皮膚炎
  • 貧血
  • 発熱、頭痛
  • 筋肉痛・関節痛

イマチニブをいつまで継続すべきか?

イマチニブを投与するのは、手術後に再発が起こった場合や、すでに進行している場合です。そのため、イマチニブを投与しても完全に腫瘍が消失する完全寛解(CR)に達することは、国内試験でもほとんど認められていません。したがって、基本的にはイマチニブの服用は継続すべきと考えられています。最近のヨーロッパの発表でも、イマチニブを中止することは、縮小効果が認められてもよくないことが報告されました。

イマチニブでも効果が得られなかった場合は?

現在、イマチニブが効かなくなるパターンとして、一次耐性と二次耐性が考えられています。一次耐性というのは、初めからイマチニブが効かない場合で、前述のKIT蛋白のエクソン11以外の変異があった場合や、KIT蛋白に変異がない特殊なGISTの場合などが考えられています。また、二次耐性は、イマチニブ治療後に発生する耐性で、1.5年の治療で、約半数の症例に耐性が生じることが報告されています。

イマチニブが効かない場合の対処法は、現在、世界中の研究者が最も精力的に研究しているところです。主な対策法は現時点では以下のとおりです。

1)一次耐性の場合

  • スニチニブを投与する
  • イマチニブを増量する(日本における保険使用量は1日400mgまで)
  • 新しい薬剤の臨床試験に参加する(国内、海外)

2)二次耐性の場合

  • 部分的に腫瘍が大きくなった場合は、その部分を手術により切除する(イマチニブは継続する)
  • スニチニブを投与する
  • イマチニブを増量する(日本における保険使用量は1日400mgまで)
  • 新しい薬剤の臨床試験に参加する(国内、海外)

スニチニブについては、主治医の先生にお問い合わせください。

なお、二次耐性に対するイマチニブの増量が有効であるかどうかは、現時点では確定していません。しかし、多くの腫瘍はイマチニブで抑制されていますので、副作用などが重篤でなければ、引き続きイマチニブは継続すべきというのが世界の研究者の共通理解です。